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Minority Hour

こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。

   

湯けむり夢気分

そうだ、温泉に行こう。



湯けむり夢気分


道具屋でアイテムの補充を済ませたクラウドにまず駄々をこねだしたのはユフィだった。早くも復興の兆しを見せ始めるミディールのそこかしこに立ち並ぶのれんに描かれているのは女性に訴えかける温泉マーク。当初はシカトを決め込んだクラウドだったが、「いいなぁ、広いお風呂...」と効用の書かれた看板に食い入るティファに一瞬ピクリと心を動かされる。

「『打ち身、腰痛、肩凝り...』へぇ。こんなのにも効くのね、温泉って」
「ほらぁ、ティファも入りたそうじゃん!女子の疲労回復には大切なんだよっ、お風呂って!!ハイウィンドのシャワーにはバスタブないしさ...」

「ティファも看病疲れトカ看病疲れトカ看病疲れトカトカ...「わかった、わかった!」大音量で肩身の狭くなる単語を連呼されクラウドは大人しく降参のポーズを取った。

「一時間だけだぞ」





ごつごつとした岩造りの湯船は揃えられた竹の柵で三方を囲まれていた。景色の見える方角にはこじんまりながらも風流ある箱庭が横たわり奥には深緑の森林が覗き、なかなか風情ある趣きである。
案外良いものだな。一時気を良くしたクラウドは、だが五分と経たずに体に生じる異変に気付き始めた。

「熱い...」

なんだこれ、熱過ぎる...風呂ってこんなに熱かったか?
「俺、限界だ。もう出る...」男性の割には色素の薄めな肌を胸まで真っ赤に染めた男を引き止める者はいない。しかし岩風呂から這い出ようとヨロヨロと腰を持ち上げた時、柵の向こうからキャッキャと響いてきた甲高い声に彼はハタリと動きを止めた。

「えいっ!!」
「きゃあ!ちょっと、やめてよユフィ!」
「いいじゃんいいじゃん、女同士なんだし!おおっ、これぞまさしく崩れないマシュマロ...」
「ひゃあ!あ...くすぐったい...てば!!」

ベタながらも感触を彷彿し易い表現と、期せずして上がった色っぽい声にクラウドは咄嗟に透視不可能であるにも関わらず男女の風呂場を隔てる柵を凝視した。

(崩れない...マシュマロ...)

幼い頃何度か口にしたお菓子の食感はそれは衝撃的なものであった。一体全体何で出来てるんだ?誰もが一度は疑問に思うフニフニ感。遥か昔に指先でつまんだり口内に頬張った柔らかさを克明に思い出し、何がとは直接的には言い表されなかったユフィの言い回しに逆に想像力を掻き立てられ、クラウドはゴクリと唾を飲み下す。

「...上がるんじゃなかったのか?」

意外にもアッサリと厚着を脱ぎ去ったヴィンセントの指摘にハッと我に返り、「『打撲、切り傷、筋肉痛...』そんなものにも効くのか、温泉は。いてて、さっき捻ったばかりの腱が疼きだした。しょうがないな...」とクラウドはわざとらしく立て札を読み上げ再び湯の中にチャプンと収まった。



「ふぅ、気持ちいい...」

所はつい立ての向こう側である女湯に移る。岩肌に背を預け手足をさする年上の女友達の肢体を、濁り湯の割に透明度の高いわき水は魅惑的に透かす。同性であるというのにドキドキしてしまう程のメリハリあるラインに、ユフィは興味本位でジロジロと視線を這わせる。特に関心が注がれるのは同じくらいの細身であるにも関わらず圧倒的な質量の差が際立つ胸元であった。年頃の彼女にとっては重大問題である疑惑の解消のため、ユフィは泳ぐようにして湯の中でくつろぐティファにズイと詰め寄った。

「ココって...揉まれると大きくなるの?」

馬鹿馬鹿しいと一刀両断するには真剣な眼差しに、ティファはその的外れな質問を一蹴するのをなんとか踏み止まった。「さ、さあ...迷信じゃない?」苦笑いと共に濁そうとするが、「ええ〜、だって全っ然大っきくならないんだよねぇ。やっぱケーケンがモノを言うのかなって...ティファってナンカ凄そうだし...「私だってユフィぐらいの年にはたいしてなかったって。これからよ、これから!」慌てて話の腰を折ったティファの口車にユフィはまんまと乗せられ、嬉しそうに自らの胸に手を当てる。

「そっかぁ、これからか〜。アタシもエアリスくらいにはなるよね?」

エアリスって結構胸あったような...
頭の片隅で不安を覚えるが、ひとまず話題がすり替わった事にティファはホッと安堵する。齢二十歳にして、残念ながらユフィが想像するような男性経験は実のところ全く無い。先程話を逸らした理由は、多少の見栄を張りたかった以上にうら若き十代の夢を壊しては...なんて懸念からであった。

ここ数年、ジェシーから「18超えてバージンとか有り得ない!」などと侮辱され続けた屈辱を思い出し、ティファは人知れず苛々を募らせる。店の経営にマリンのお世話にミッション準備に...あれ程こき使われてなければ私だって少しくらいは...

「えいっ!!」
「うわっ、何すんの!?変態!エロ!!」
「何よ〜、ユフィだってやってきたじゃない。お返しよ!」

「あら、そんな事言って十分あるじゃない」「え、マジで!?」薄い柵越しに和気あいあいと水面に反響する声を頼りに妄想を膨らませた男達の口元がだらしなく緩んだ。しかしただ一人、高熱に当てられ喘いでいた筈の金髪男の周辺だけがブリザガをかけられたように凍りついている。

「俺が培養液に浸されてる間にティファが別の男と...俺が培養液に浸されてる間にティファが別の男と...」

あたかも経験済みであるかのような言及をティファが否定しなかった事に谷底に突き落とされたかのようなクラウドは、ショックのあまり心の声が外に漏れ出てしまっていた。アイツ、男なんかいたか?ティファに過重労働を課していた張本人であるバレットだけがクラウドの隣でハテと首を捻る。

「おい、クラウド。ティファが15ん時、あんな洗濯板だったのか?」
「まさか。C...いや、確実にDはあったぞ」
「だよな」

「まったく、女同士の慰め合い程いい加減なものはないぜ」やれやれと首をすぼめるシドに一同は無言で同意し、動揺しつつも当時の情報を的確に掘り起こすクラウドを始めとする、長湯などには微塵も興味のない連中は引き続き固唾を飲んで耳をそばだて続けた。

「でさでさ、どーなの?クラウドとは最近?」

次はそうきたか。ティファは片手で肩の凝りを丹念に揉みほぐしながら、守りの姿勢を固めた。

「...ユフィが期待してるような事は何もないから」
「ええっ、ハグも?チューも?手繋ぎも?」
「ないない。一切、ない!」

ばっさりと断言され体面を潰された男の周辺がミシっと音を立て更に冷たい氷と化した。同情するかのようにクラウドの肩に手を置いたケットシーの表情も、笑っている筈なのにどこか物寂し気に見える。

「そこは経験豊富なティファがさ、グイグイ〜って引っ張ってってやんないと「...ないの」
「おろ?」

事実を隠し続ける事に耐えきれなくなったティファがとうとう感情を爆発させる。

「だからないの!男の人と付き合ったこと!!」

「はぁ...」と脱力し両手で顔を覆うティファに、ユフィは絶句した。こんな事ってあるんだ...驚愕すると同時に思い知るのは、恋愛において積極性がどれほど物を言うかという事実である。確かエアリスの初恋は17だったと聞いた。それを受け、自分にも来年あたりには人生初のロマンスが訪れるかも、なんてウキウキしていたが、まさかこの絶大な男受けを誇る友人が未経験者だったとは...

ティファは渾身のカミングアウトに居た堪れない上に、のぼせて岩にもたれグッタリとしている。その姿はやはり文句なしに艶っぽくてなんとも理不尽な思いに駆られた。もう、なんで年下のユフィちゃんが慰めてあげなきゃなんないんだよ〜!アドバイスの一つや二つ期待していた癖に、思わぬ形勢逆転をユフィは心底嘆いた。

「えと、クラウドなんて良いんじゃない?優しそうだし...」

多分、童◯だし...
その指摘は麗しき乙女には似つかわしくない内容であったのと、ほんの数メートル先で当の本人が聞き耳を立てていた状況を鑑みるに、声に出さなくて正しかったに違いない。拳を握り締めウルウルと感涙するクラウドを覆った氷は、春の訪れを知った流氷の様に溶け出しナナキが無邪気にそれを頬に当て体の火照りを鎮めていた。

「...彼が嫌じゃなければ、ね?」

真っ赤に染まった彼女が発した小声がクラウドの耳まで届くか届かないかの時、臨界点を遥かに超えるまで高温の湯に浸かっていた彼は意識を失い温泉にブクブクと沈み倒れ臥した。





「なにさ、一時間だけって言ったのクラウドのクセに!」
「なんだかとっても幸せそうね...」

畳に寝転がらされ、茹で上がった顔をティファにうちわで仰いで貰いながらぼんやりと会話に耳を傾けるクラウドは、自らが意識を失わせる原因となったとっておきの一言が口惜しくも思い出せないのだった。


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