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Minority Hour

こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。

   

Late Spring ~前編~

新婚ほやほやの話です。R15指定しておきます。



Late Spring
~前編~


こじんまりとした空間ではあるが、目に優しい色で揃えられた壁紙やカーテン、皺一つないピンと張られたシーツ。未だ足を踏み入れたことのない辺境の地で、無事安眠出来る寝床を確保した安堵も相まったのだろうか。部屋に一人きりだというのに、自らの唇が持ち上がっていることに気付き、その事実に益々表情が緩んでいく。当然、感情表現に乏しいこの男がひとりでに笑っているのではない。

『...ふふ、デンゼルったらおかしいでしょ?』
『いいよな、そっちは楽しそうで』

入れられた茶々はもちろん本意ではない。『え?』と僅かに動揺した電話口の向こうに、軽く見開いた瞳と傾げられた首がありありと浮かんだ。

『俺なんか、一日中人っ子一人いない野っ原を黙々と走り続けて...』

運転は嫌いではないが、それにしても限度というものがある。

『ああ、でも面白いこともあったか』

ようやくたどり着いた先の住人がいやに顔を凝視してくると疑問だったが、フェンリルのミラーを覗き合点がいった。長時間に渡り埃の舞う乾燥地帯を走り続けた顔面は見事に黒ずんでいた。ゴーグルの当たっている目元だけをクッキリと除いて。

『いいよ、もう二度と会うこともない客だし』

クックと喉でくぐもっていた音は、すぐに『あはは!』と堰が切れる。遠慮のない反応につい不貞腐れた声が出たが、耳に心地よい笑い声は疲労した身体にじんわりと染み込んでいく。ふと思いつき時計を仰ぎ見た。

『もう切るぞ、そろそろ休め』

そうは言ったが、互いにのらりくらりと通話を終わらせるタイミングを逸してしまう。共に暮らしてきた年数の割に、こう言った長電話の作法は双方心得ていない。

『ティファから切れよ。こないだは俺だった』
『そうだったっけ?』

納得のいかなさそうな声色を無視して『おやすみ』と切上げようとする。数日ぶりの会話とあって随分話し込んでしまったようだ。そろそろ寝かせてやらないといけない。だが耳を澄ませた先の息遣いは無言のまま途切れることはなく、控えめな、しかしハッキリと耳に届く声が続いた。

『...おやすみ、だけ?』
『ん?』

なんだ?考えを巡らせて暫しの後、押し黙る彼女の反応に求められている言葉に勘付く。『ティファ』と前置いた、その後もまた時間がかかった。『あ...』と震える声が呼吸と共に唇から漏れ出て、ようやく腹をくくる。

『...愛してる』

一呼吸置いた後、『私も。愛してる、クラウド』と子供達の近況を語るのとは異なる甘やかな音が鼓膜を震わせる。名残惜しいと思った矢先、『おやすみ』と短く返され電話は切られてしまった。



所は変わり、彼らの生活拠点の上階にて。胸の前に抱えられた枕は気の毒なまで強く抱きしめられていた。押し当てられた顔はこれでもかと赤く染まり、瞳には薄っすらと涙さえ浮かんでくる。私ったら、私ったら...

言ってしまった...

うう、恥ずかしい顔から火が出そう。クラウド困ってたよね、嫌だったかな?でもちゃんと言ってくれたしああもう帰って来たらどんな顔しよう...
爪を食い込ませた枕カバーがミシっと悲鳴を上げ、慌てて我に返る。力を緩めた両手で包み込んだ頬が熱い。それは間違いなく羞恥からくるものだけではなくて...

身体中を電気が駆け巡るかの様な感覚は記憶に新しい。私達が正式な家族となる際、私を一生愛し続けると明言してくれた彼。その時、自分でも認識していない奥深くで長年凍てついていた鉛のような塊が溶け去っていくのを感じた。

(言葉なんかなくたって大切にされてる。本当にそう思ってたのに...)

シーツに横たえた携帯電話に視線を落とす。夫婦の名が交互に表示された通話履歴がこそばゆい。まさか自分がこんなに貪欲な人間だったなんて。あれ以来自分はどこかおかしい。愛を伝えて欲しくて、伝えたくて...

穏やかな低音が発した短い響きを味わい直すよう、今度はそっとクッションに顔を埋めると吐息が漏れ出た。

「両想いって、幸せ...」



時を同じくして、手のひらを目頭に当てがいうな垂れる男はピクリとも動かない。

言ってしまった...

この手の台詞を軽々しく発することは信条に反するが、先程のものはそんなものをもへし折るくらいの破壊力があった。

ーーおやすみ、だけ?

ほんのり蒸気した頬。甘える様に、こちらを試す様に潤んだ上目遣いが生々しく彷彿され、クラウドは首をブンブン振るとベッドに倒れ込んだ。木目板が走る天井を見つめて激しく鼓動を打つ心臓を宥め、改めて今年度二人に訪れた新たな転機を振り返る。

(籍、入れて良かったな)

結婚などただの形式的な儀式に過ぎず、しようとしまいと俺達の関係は変わらない。これが入籍前の考えだった。けど...
下唇に当たった歯におのずと力が籠る。

(ずっと我慢させてたんだよな...)

この数年のティファは寝食を共にしているにも関わらずどこか遠慮がちで、家族に頼ることなく大抵の障害は一人で消化させていた。それは気質的な問題でどうしようもないものだと決め込んでいたが、ここに来てやっと愚かさに気付かされる。俺の意思表示の弱さがティファを追い詰めていただけなんだ。そこまでを考え、思考は邪な、しかし男としては私生活において一番の関心事に移りゴクリと生唾を飲み込む。

(...夜も、変わったよな)

快楽に溺れることを後ろめたく隠してしまいがちな彼女。最近のティファは丁寧に触れてやるといつになく高ぶって、そのまま良いところに当てると思わず腰をくねらせてしまい、ついには...

“ん...あっ!そこ......”

とうとう漏れ出てしまった欲求に自ら驚き、赤面して気まずそうに伏せられた睫毛に生唾を飲み込む。思わぬ本音にゾクゾクと背筋を走る快感。目尻に滲んだ涙を舐めとってやりながら、要求通りの箇所にねっとりと打ち付ける。

“ティファ...いけそうか?”

もはや返事をするどころでない呼吸の荒くなった身体は、代わりに俺の首に巻きつけた両腕をグッと引き寄せる。その先の、達してしまった瞬間の反応が最近はまた違った。

“あ!...ん、クラウド、好き......大好き!!”

耳元で鮮明に再生された声に、横たえていた半身をガバッと起こす。片手で前髪をグシャグシャとかき混ぜた。落ち着け、落ち着け...

ティファから好きだと明言されるのは滅多にないことで、もっと言うなら人生において他の異性から好意を寄せられたこともない。歯の浮く様な台詞を平気で吐く輩はいけ好かないが、そこには妬みもあったのだろう。

(実際にされると、悪くないもんだな)

それどころか、正直かなり嬉しかった。だというのに恋愛経験の乏しい俺の取ったリアクションは思考停止の上硬直するという散々なもので...

ティファも今頃真っ赤なんだろうか。その光景が思い浮かび、ふと笑みが溢れる。間違いなく奥手な部類に入る彼女。言い訳は無用だな。俺からも、少しはきちんと...
気付けば再び身を横たえていたクラウドはようやく全身の力を抜き、直後は堪能することの出来なかった愛の告白を噛み締めるため瞳を閉じる。





後編に続きます。


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