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Minority Hour

こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。

   

見えない鎖 ~Side Tifa~


クラウドが家を出た後のティファ。
先に~Side Cloud~をお読み下さい。

こちらも暗く狂気めいています。

少しばかしの流血と、ティファオリキャラ描写が出てきます。
(恋愛感情ではないつもりです)

ご注意願います。








私の身体を滴(したた)る血。

周囲に巻き付いた、何かを伝いながら。

それは苦痛を与えるだけで、私を死には至らせない。

どうか...一思いに、殺して欲しい。


見えない鎖 ~Side Tifa~


いけない。

動いて、私の体。

いつもの笑顔で誤魔化すのよ。


私は一人の客の前で固まっていた。
誘いを断られたその男が、頭に血を昇らせて吐いた暴言によって。

「男に捨てられた分際で、お高くとまってんじゃねぇよ!!」

何故動けないかは明白だ。
だってそれは真実だから。

「......アンタ、飲み過ぎだな」

その声に思考を引き戻され、時は再び刻み出す。
見ればカウンターに陣取っていた別の客が、男の腕を捻り上げている。
どちらが優勢かは明らかだった。
男は「二度と来るか!こんな店」と負け惜しみを言い、騒がしく店を出て行く。
肩からどっと力が抜けた。

「悪い、金を取り忘れた」

自らの財布に手を伸ばす彼。

「いいえ!勿論そんなの結構です。
あの...ありがとうございました。
すみません、私...取り乱してしまって」

丁重に頭を下げる。

「...それじゃあ、遠慮なく」

そう言い何事もなかったかのようにカウンターへと戻る彼。
常連客も酔っ払いには慣れている。
何時の間にか店内には平和な空気が戻っていた。

デンゼルを迎え入れてから一度は冷え込んだ客入りは、皮肉にも盛り返していた。
「彼」の家出の直後から。

先程の客にチラリと視線を送る。
彼もクラウドが家を出た頃から足繁く店に来る。
寡黙な人。
言葉を交わしたのは先程が初めてだった。

(この人も何か良からぬ気を持ってここへ来るのかしら)

だって彼はほぼ毎日ここへ来る。
もしそうだったら残念だが、不思議と嫌悪感は起こらなかった。


ああ、そうか。

少し、似てるんだ。





「今日、教会の辺りでクラウドさんを見かけたよ」

彼が自ら家を出たと知った時。
彼女には会っていると知った時。
私は涙を流さなかった。
ただ、視界から色がなくなった。

「言ってくれればいいのに...」

脳裏に浮かぶ幻影に向かい、届くことのない恨み言を言う。

‘君は役立たずだよ’

それに...

‘俺には彼女がいる’

そうはっきりと言い渡さないその行為は、私に妄想の余地を与える。
酷く楽観的で、自己中心的な幻想。

‘彼は帰りたくても、帰れないのかもしれない’





数日後、買い物中に市場で例の客を見かけた。
挨拶ぐらいしようか?
そう思い足を向けた瞬間、隣の女性の存在に気が付く。
その人は彼の肩に手を当てていた。
慈(いつく)しみに溢れた表情で。
彼もそれに優しく相槌を打った。

途端に顔がカッと赤くなる。
私は何を勝手に自惚れていたのだろう。
最低な勘違いだわ。
すぐさま踵(きびす)を返した。

一人なのは、私だけ。





その日も彼はやって来た。
いつものごとく閉店まで居座るつもりらしく、頭にあの女性の姿が過(よぎ)る。
そして普段はしないようなお節介を焼いてしまった。

「早く帰らないと、恋人が心配しますよ~」

顔を持ち上げ、不思議そうにする彼。

「余計な事を言ってごめんなさい。
ただ、昼間市場で一緒にいるところを見てしまって...」

そう言うと、「ああ」と言い納得した顔をした。
そして淡々と続ける。

「おそらくそれは俺の姉だ。恋人はね、死んだんだよ」


「数ヶ月前に星痕で」





今日も身体を滴る血。

どれだけ流れても、後から後から湧いてくる。

......ファ

...ティファ

「ティファ!」

「はっ!」

「ティファ、切ったの!?」

気付くと横にはこちらを心配そうに見上げ、私の体を揺さぶるマリン。
目の前のシンクは血だらけだった。
うっかり割ってしまったグラス。
私はその破片を無意識の内に握り締めていた。

「ティファ...」

不安そうな声を出すマリン。
いけない、この子は鋭いのよ。
急ぎ笑顔を取り繕い、救急箱を取って来てくれる?と頼む。

(ああ、独り身だからって心配しないでくれ。
俺にはここにいる他の連中みたいなやましい気持ちはない)

あの晩、彼は穏やかな口調で伝えた。
謝らなければならないはずの私の口は、動けない。

(星痕の子供を引き取ってから客が減ったと聞いて、居ても立ってもいられなくなった)

(あの病気は移らない。
俺はずっと側で看病をしていたんだ。
...みんな、馬鹿ばっかりだ)

そして眉を下げ、続ける。

(恋愛なんて、もう懲り懲りだ)





その日も普段通り店を開いた。
水仕事のため包帯は巻けないが、血は止まっている。

「ティファはお料理だけでいいよ!」

気丈に洗い物を手伝ってくれるマリン。
少し無理をしているに違いない。
この子は私の百倍強い。

「うっかりしちゃって」

そう客を誤魔化し続け、閉店の時間を迎えた。

最後まで残っていたのは例の客だけだった。
いつもの様に出口まで見送りをしたが、立ち去る様子はない。
やがてポツリと言葉を漏らす。

「もうここには来ないよ」

心に小さな棘が刺さる。
彼は、傷が露(あら)わになっている方の手首を掴み手のひらを上に向かせると、悲しそうに見つめた。

「抱きしめてしまいそうになるから」

そして、「嘘笑いを見抜くのは得意なんだ」と、少し疲れた笑顔を向ける
私はその赤い線を見つめたまま、何も言えない。

「でも、そしたら彼女は一人になってしまう」

彼は遠くを見てる。
瞳に映るのは、私であって、私でない。

「そして、君の心の中に居る彼も」





結局一言もかけぬまま、背中を見送った。
上手く働かない頭でぼんやりと思う。
きっと私はクラウドに会いさえしなければ、ああいう人と恋に落ちていたんだろう。





今も身体を滴る血。

私を縛る、見えない何か。

苦痛を与えるためだけに巻かれたそれは、私に残された彼との唯一の接点だ。

何も残さず消えた彼。
でもこれだけはわかる。
彼は私に言えない何かを抱えてる。
沈黙により、私に一筋の希望の光を与え続ける卑怯な彼。
1%でも彼がここに戻る可能性があるなら私は...前には進めない。
ここで待つしか道はないのよ。
流れる血が枯れるまで。

彼もそれを知っているはずだ。
だって彼は電話に出ない。
その電源が切れる日は来ないのに。

傷口が開くのも構わず握り締めた手のひらには、血の色とは異なる透明な液体が混ざっていた。


私はその日、彼が家を出てから初めて泣いた。


******************


救いようのない話を書いてしまいました。


互いに傷つけ合うことでしか、生きられなかったあの頃の二人。







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