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Minority Hour

こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。

   

One tiny trump 9


One tiny trump 8、の続きです。

長いです。


One tiny trump 9 ~FF7 Another Story~


徐々にその冷たさを増す、甲板を突き抜ける風。
以前は目下の大地を歩いたが、今はそこに空から向かっている。
遠くに臨む、この世のものとは思えない程大きな竜巻。
俺にはわかる。
あいつはあそこで笑いながら俺達を待っているんだ。





俺達の考えた作戦は、酷な物である。
現状大きく開いたセフィロスとの実力差を冷静に見つめた結果だった。
その数だけは誇る新羅兵を盾に、力のある者が奴を叩く。
彼らが命がけで作った隙を利用して。
力のある者とは、暗に俺を指していた。

そんな非道極まりない作戦を前にしても、兵士達は俺の回復した右手を希望に溢れんばかりの眼差しで見つめてくれる。
その期待を裏切ってはいけない。

涼風に当たり乗り物酔いを落ち着かせ、機内へ引き返す。
するとコックピットに続く廊下の先に、張り詰めた空気を感じ取った。
互いが同時にその存在に気付き一瞬目が合うが、すぐにそれを逸らす。
おそらく彼女も。

ティファとはあれ以来口を聞いていなかった。

俺は変わらず彼女を愛していたが、未だに例の件を許せずにいた。
そして怖かった。
あんなにも簡単に自らの命を放棄してしまえる彼女が。

「私も一緒に行くわ」

ティファはまだ戦闘に耐えられる体ではなかったが、作戦会議でこう主張する。
内心舌打ちした。
そしてその後、艇長に伝える。

「ティファから目を離さないでくれ。
戦闘中、ティファは艇から降ろさない」

「んなこたぁ本人に言え!バッキャローめが!!
この非常時に喧嘩なんかしやがってよう。
さっさと仲直りしやがれ!!!」

シドは相変わらず口悪くまくし立てたが、俺の気持ちを少しは理解してくれたのか、最後には渋々「わかった」と言ってくれた。

俺は彼女を全く信用していない。
次は何をしでかすのかとビクビクしていた。

加えてセフィロスの挙動に対しても高まる不審。
俺達に準備の猶予を与えてくれているかのような、ゆったりとした足取り。
おそらくあいつは俺達が辿り着くまでメテオは使わないだろう。
それをするのは、俺達を存分に弄んだ後でだ。
小さな子供が興味本位で無抵抗の虫を切り刻むように。

俺には、それが気味悪かった。





「おら~!辛気臭い顔してるんじゃないっつの!!
そんなんじゃ勝てる試合にも負けるよ!?
ちょっと盗み働くくらいの気で行けばいーんだって!!」

ユフィが体当たりをしてきた。

「お前がメンタル弱いのは知ってるがよ、頼りにしてるぜ?
リーダーさんよう」

バレットも俺の頭を鷲掴むと、そこをぐちゃぐちゃとかき混ぜる。

「自信を持て。お前は強い」

気休めは言わない男だからな。
身に染みるよ、ヴィンセント。

いよいよだった。
俺達は今正にセフィロスのいる地点の上空に停留している。
乗り物酔いと緊張が混ざり青ざめた顔をした俺を気遣って、仲間達は代わる代わる俺を鼓舞してくれた。

「皆、ありがとう...」

「かーーっ!またかよっ!
やめてくれよ、その気の抜けた言い方。
『行くぜ!』くらい、言えねぇのかよ」

操縦席から野次が飛ぶ。
そ、そうだな。


「よし、皆!......行くぜ!!!」


「そうこなくっちゃ!」

レッドも吠えた。

周囲をとりまく温かい空気。
仲間達は無言で微笑みあった。

そして...

俺を見つめる紅茶色の二つの瞳。
その持ち主は、俺が戦う一番の理由。

仲間達は俺と彼女に交互に意味深な視線を送ると、ニヤニヤしながら俺を置いて一足先にその場を後にする。
去り際にユフィに肘でつつかれ、よろめく体。
久しぶりに数秒絡まり合う互いの視線。
そして二週間ぶりに掛けられた、凛とした声。

「クラウド」

彼女は俺をしっかりと見据えてきたが、俺は動けない。

(最後...かもしれない)

しかし俺はまたそこでいらない意地を張ってしまう。
くるりとティファに背を向け、何も言わず甲板へ出て来てしまった。

手摺りに両手をつき服と髪を風ではためかせ、真下を覗きこむ。
何メートル下だろうか。
豆粒の様に小さなその姿。
だがはっきりと見えた。
奴は俺の姿を甲板に認め俺だけを見つめ、そして...


笑ってる...


背筋に悪寒が走る。

15分後、戦いは始まった。





セフィロスの立っているそこは、神秘的な空間だった。
大昔に出来たであろうクレーター。
周りを崖でぐるりと囲まれた空洞。
至るところに植物の根が張り巡らされ、その合間には、ガイアの絶壁の洞窟と似たクリスタルが埋め込まれている。

丸いそこは、あたかも闘技場の様だ。

奴を中央に、百人あまりの兵士達が奴を取り囲む。
崖の上には遠距離攻撃隊と、回復要員が控えていた。

流れるような無駄のない動きで正宗を構えるセフィロス。
固唾を呑む一同の緊張を汲み取り、最初に動いたのは俺だった。

バスターソードと正宗が奏でる澄んだ音。
それを合図に他の兵士達も動き出す。
グググ...と互いの太刀を押し付け合うと、その剣越しに奴は楽しそうに言った。


「右腕の調子は良いようだな、クラウド」





充満する鉄臭い匂いに顔をしかめた。

「うわっ!」

尻餅をついていた俺に覆い被さるよう、一人の兵士が弾き飛んでくる。
咄嗟に剣を離しそいつを両手で受け止めた。

ヌルっ...

生暖かい嫌な感触に、肩で息をするそいつに咄嗟に回復魔法を...

「...クラウドさん、俺はいいから立って...」

言われた通りに剣を握り身構え直す。

押されてはいなかったが、押してもいなかった。

怪我人が飛行艇へと吸い込まれるやいなや、再びそこから湧き出る戦力達。
奴にとってはつまらない戦い。
それも俺達の狙いだった。

「チッ、次から次へとこざかしい...」

セフィロスは ‘らしく’ なく、乱雑に正宗を振り回す。

奴はいらついてる。
...それを利用して隙を作るんだ!

レッドとバレットに目配せをする。
そしてフリーズを放った。
奴にというよりは、奴の足元に。

「むっ...」

地面と一体化する奴の足。
しかしその氷にはすぐに亀裂が入る。

ブリザガ!!!

サイドからバレットが再び氷を被せた。
と同時にレッドが利き腕を後ろからガブリとやる。

ここにきて初めて奴の顔が歪んだ。
その懐が空く。
今だ...!
しかし奴が歪んだ表情を戻し呟いた言葉に、体が一瞬だけたじろいだ。


「クラウド」

「ティファはどこだ?」


「はっっ!!」

太刀筋にばかり気を取られていた。
しかし顔の前に現れたのは、正宗を握っていない方の手のひら。

ドォォォォオオン!!!

爆音を轟かせたそれに、数十メートル先まで吹っ飛ばされる。
視界の片隅で、レッドとバレットが余波にやられたのも見えた。

何の魔法だったのかもわからない。
顔面を直撃された。
額からしたたる生暖かい血。
上半身も血だらけだった。

「ぐわぁあっっ!!」

追い討ちをかけるように腹に激痛が走る。
頭上にはあいつの笑顔。
ゆっくりと自分の体に視線を這わせると、正宗は俺の体を地に縫い止めるよう貫通している。

「うっ...!」

引っこ抜かれた。

「がっっ!!」

そこを足で踏みにじられる。
堪らず血を吐いた。
頭部と腹部の激痛に、意識が朦朧となる。

「まだだ。まだ殺さんぞ。
...準備は整った。始めるとしよう」

奴は振り返り俺をそこにほったらかしにしたまま、ゆっくりと空洞の中央へと進んでいく。

だ...め、だ......

かろうじて動く右手をその背中に向かって伸ばすが、それは虚しく空気をかく。

奴が天を仰ぐよう両手を広げるのが見えた。

「母さん...いよいよだよ...
       さあ、一つになろう!!」


キシャーーーーーー!!!


それに応えるように、触手を揺らし姿を現すジェノバ。

そして奴が掲げる手の先に、みるみる集まる赤黒い雲。
やがて燃えたぎる炎が中から姿を現した。

そいつは丸く、巨大だった。
俺の横たわっているここから丁度100mほど上空だろうか?
体からいくつもの赤い竜巻を生み出し、それはこちらへと迫ってくる。





メテオが、召喚された。





One tiny trump 10、へ続きます。


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