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Minority Hour

こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。

   

Twilight


幼少期×AC後の、ティファママ×クラウド×ティファです。







夕暮れ時の空は、故郷に抱く想いに通じている気がする。

それは少し切なく、やるせない気持ちを駆り立てるんだ。


でもきっと、俺はこの時間が嫌いじゃない。


Twilight


“お願い、あともうちょっとだけ!”

そうねだられるのは、もう3度目だ。
10分、また10分と延長を重ねる遊び時間に耐えかね、西に傾いた陽はとうにその体の大半を地平線に隠してしまった。

そろそろ呼びに行かなくちゃな。

腹が減ったし、それを用意してくれている人が心配しだす頃だ。
だけどその思いに反し、背中にひんやり懐かしい感触と湿った土の匂いに吸い込まれるよう、静かに目を閉じる。
遠くのはしゃぎ声は子守唄のように体を億劫にさせ、意識は益々深い奥底へ落ちて行った。

何故こんなにも心が穏やかなのだろう。
不思議だ。
俺はこの時間があまり好きではなかった気がする。

その日一日の楽しみに終止符を打たれる時刻。
何より親に手を引かれ一人、また一人と数を減らす他の子供達を見るのが嫌だった。
最後には、決まって俺だけになってしまうから。

――1人でお家に帰れるの?偉いわね

おぼろげに耳に蘇る呼びかけ。

――だけど、今日は一緒に帰ろう?

あれは誰だったろう。
あまり近しい人ではないはずだ。
身に一瞬だけ走った緊張を覚えている。
でもその声調は、どこまでも心地良い。

家までしっかりと繋がれた手。
もう一方の手は俺より小さな女の子に握られていて、その子は何かめちゃくちゃな歌を口ずさんでいた。

あの肌の温もりが恋しくて、陽が沈む度にその姿を探すが、その後あの手が俺に伸ばされる日はなかった。
代わりに薄暗い公園にはポツリと取り残された幼い少女が加わる。
その子は何度も入口の方を伺うが、やがて諦めブランコから勢いよく飛び降り、俺に一声かけると夕焼けを背に駆けて行く。

「帰って来ないと思ったら、砂場でお昼寝?」

薄っすらと開いた瞼から覗く瞳の色から、本気で寝ていた訳でないのは伝わるだろう。
何も言わず片手を宙に伸ばした。
笑い声で空気が震えると同時に、それは優しく包まれ、かつてと同じ台詞と共に体は引き上げられる。

――クラウド、一緒に帰ろう?

砂の上に腰を降ろしたままの俺の髪と背中は呆れ口調ではたかれた。

「あーあ、こんなにしちゃって...」

「...びっくりした」

「ん?」

「声がそっくりだったから」

それに、手の感触も。



「一度だけ、家まで送って貰った事があるんだ」

俺の口から発せられた予想外の人物に、ティファは目を見開いた。

「ママが公園に?」

物心ついた時には既に床に伏せっていたティファの母さん。
ティファが母親とどれくらい日常生活を共に出来たかは知らない。
だけどそんな取るに足らない出来事にさえ息を飲む反応から察するに、それほど多くはないのだろう。

「すごく嬉しかったのに、下ばかり向いて礼も言わなかった」

ティファは鼻にかかった声を絞り出し、柔らかく微笑む。

「ママはそんなこと気にしないよ」

一人ぼっちは自分だけ。そう思い込んでいた子供時代。
常に笑顔を絶やさず気丈に振舞っていた彼女も、この時間帯を辛く思う時があったに違いなかった。
幼い頃垣間見たあの顔と同じ表情をするティファの手を握り直す。

“あの時はこうしてあげられなくて、ごめんな”

だけどこみあげた後悔は、言葉を形どることなく行き場をなくす。
ティファの少し冷えた指先の温度が俺のそれと溶け合い、温かさを取り戻していくだけで満足を覚えてしまう俺は、きっと人生を何べんやり直したとしても、同じ行動をとってしまうのだろう。
そして控えめな、だけど確かに俺を受け入れてくれているその手に、俺はまた甘えてしまうんだ。

なぁ、ティファ。
こんな俺じゃなかったら、もっと良い未来が待っていたのは確かだけど...
今からでも取り戻せると信じてもいいだろうか?

何時の間にか姿の見当たらなくなった子供たち二人の声を頼りに、公園の隣の原っぱへと続く細い土の道を行く。
心細い夕陽が映しだすティファの瞳は一転、輝きだした。

「ねぇ、もっといろいろ教えて?ママのこと」

俺は少しの間、遠い記憶に意識を巡らせてみるが、すぐにきまり悪そうに頭をかく。

「それ以外は覚えてないんだ」

だが落胆の色を見せられ、今一度あの頃に思いを馳せる。

母さんの口からしょっちゅう聞かされた名前。
何時まで経っても夕食の用意に取り掛からない背中にイライラした夕刻。
あの日玄関先に響いてた笑い声も、多分 “ティファの声” だ。

「クラウドのお母さんは、いっつもね...」

気付けば彼女の関心は何時の間にか俺の肉親へと移ったようだ。
次から次へと飛び出す、俺も知らないエピソードを嬉しそうに語る様は、あたかも自分の家族の事を話しているかのようで...
だけどそれもあながちでたらめな話ではないはずだ。
俺達が家族を名乗るなら。

血の繋がり以外に、互いが望むという手段で人は固い絆で結ばれるんだ。
遠い日にたった一度しか触れ合っていない、あの手と俺でさえも。今からだって。

ティファのあまりに夢中な様子に、今は耳を傾け続ける事に決めた。
焦らなくても、さっきの話はまた後でしてやればいい。
家に帰り着いて...
夕食を食べ終わって...

そうこうする内に、また新しい何かを思い出すかもしれない。
そう思えば、明日や明後日...もっと先にこの話題を再び持ち出すのだって、悪くない。


あの頃と違い、もう二人に家からの迎えが来ない日はないんだから...


******************


日が暮れたら、一緒に帰ろう。

Twilight=黄昏




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