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Minority Hour

こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。

   

missing heart 5


missing heart 4、の続きです。

更新は一度ここで打ち切ります。






その家はメテオに吹き飛ばされ、跡形もない。

それでも土の上に残る、家具や雑貨の名残達。
アイボリーのソファーは雨風でもう真っ黒だった。
地面に大量に散らばった小さなガラスの入れ物。

空になったその内の一つを、私はそっと拾い上げ、握り締める。


missing heart 5
     ~bloody five years~



パパは真っ直ぐな人だった。

悪く言えば、頭が固いと言うのだろう。
白黒はっきりつけて、その白だけを愛すような人。
私はそこまで極端ではないかもしれないが、多少なりとも彼の性格を受け継いでいる自信がある。

私はパパの事を抜きにしても、新羅を許せなかった。





「ちんら、こわい...」

唐突な恐ろしい発言に、母親は凍り付いた。
次の瞬間、数メートル先へ吹き飛ぶ幼子の体。

「いやぁぁぁあ!!やめて下さい!
お願いします!ごめんなさい!!」

周囲に響き渡る、悲鳴と子供の泣き声。
新羅兵は何回も、幼い娘を抱き締め庇おうとする体を蹴り上げた。

ギリッ...

奥歯が音を鳴らす。
手のひらに食い込む自分の爪が痛い。
周りは痛々しい顔をしつつも、見て見ぬふりだ。
そして私も何も出来ない。
手を出したら、私もあの親子もろとも射殺されて終わりだろう。

こんな事、絶対に間違ってる...!

しかし反新羅組織は、中々私にその尻尾を掴ませてはくれなかった。
リーダーの男は警戒心が強いらしい。聡明で冷徹な男だと。

その組織に対する人々の意見はまちまちだった。

純粋に応援する人。
考えには同調するが、過激なやり方は批判する人。
関わると新羅に目を付けられる、と彼女の様に怯える人。
新羅もそれもどっちもどっちだ、と言う人...

私は最近、その組織の名を知った。

“アバランチ”





彼女との生活は依然として楽しかった。
徐々に薄れていく、私の中の黒い憎しみ。
しかし同時に心に響くのは、パパの叱咤の声。
そして私が何もしない事で、彼の死が無駄になるのが悔しかった。
今では大好きになったスラムの住人達が、日々動物の様な扱いを受けているのも...

「痛い痛い、痛いって...!!」

「美しくなるには辛抱が必要なのよ。
ってか本当に豚に真珠、猫に小判だわ」

爪の甘皮を容赦なく、こそげ落とされる。

「私もやってみたい!」とねだると「あんた、素手でモンスター殴ってんでしょ?意味あんの?」と彼女は馬鹿にする。
そして「二度とそんな事言い出さないようにしてやる!」と意地の悪い笑顔で私の手を取った。

初めての給料日、毎月決まったお金を入れるよう要求された。

「家賃でしょ、それと光熱費...
食費は...家事をしてるからティファはいいや」

生活の経費を偏(かたよ)りなく折半し、遠慮なく請求する彼女。
おそらく彼女は私の3倍は稼いでいたと思う。
彼女は素直ではなかったが、そういったやり方が上手かった。

「金を払ってる限り、等しくあんたの家だよ」

何をするにも断りを入れる私に、再三その言葉を繰り返す。
結果、私はもう何も気にせず部屋のベッドによじ登る。
そして手を掴み離さない彼女に文句を言いながらも、二人お腹を抱え笑い転げた。

彼女はあのマニキュアを三度に一回、必ず採用した。
あたかも厳粛な儀式の様にきっちりと。
日に日に量を減らすそれがなくなる頃、私も何も言わずに買い足す。
窓辺にはカラフルな物に並び、透明な小瓶も増えていった。



「おやすみ」

ベッドの下から引っ張り出したマットレスの上から声をかける。
返答はないが気にせず、目を閉じ頭を空にしていく。

「ねぇ、ティファ」

「ん?」

暗闇に響く声に、目を開けた。

「あんたもう、ずっとここにいない?」

ハッと顔を上げると、彼女は私に背を向けている。

「復讐なんて忘れてさ」

彼女はそのままの体勢で続けた。

「初めて会った日、覚えてる?
うっかり危険な道に入っただなんて...嘘だよ。
あの日、私はモンスターに食べられて死ぬ気だった」

「あんたの事、可愛いんだよ。
私、15年ぶりに家に帰るのが楽しみになったんだ」

布団を顔に押し当て、歯を食いしばる。
溢れ出す涙を抑えきれない。
この一年、彼女がお酒を飲んで帰る日は一度もなかった。

消えかけていた私の命を救ったのも彼女だった。
私達はもう、こんなにも互いを必要としている。





「ティファちゃん、ちょっと」

職場で社長に呼び止められ振り向いた。
その瞬間、手に小さな紙切れを握らされる。
書かれた文字に目を通すと、心臓が激しく鼓動を打ち始めた。

「どこからかは言えないけど、偶然耳に入ったんだ。
一度読んだら、そのメモは処分してくれるかい?」

そこには私が一年間追い求め続けた情報があった。
喜ぶパパの顔が浮かぶ。だけど...

(パパ、ごめんなさい...)

「ありがとうございます。...でも、もういいんです」

迷わずそれを渡し返した。
晴れやかな笑顔で。

彼も「そう...そうか。うん、それが良い!」と頷き、安堵の色を見せた。



最近出来たばかりの、スラムで唯一のケーキ屋さんに寄って帰る。
六番街のマーケットにあるそれは家とは真逆の方面だが、特別に足を伸ばした。
だって今日はお祝いの日だから。
彼女と会って丁度一年。
私はその食事の席で尋ねるつもりだ。

“私のお姉ちゃんになって貰える?”

二つのケーキが倒れないよう箱をそっと抱え、彼女がどんな捻くれた返答をくれるか予想しながら、浮き足立って歩いた。

ああ、そうだ。
少し早いけど、次のマニキュアも仕入れておこう。

足の向きを変えた時、携帯電話が鞄の中で鳴り響く。
...彼女だ。
時刻は6時半。
いつもよりは遅いけど、心配される時間でもない。
お腹が空いたのかな。そんな呑気な事を考えボタンを押す。

「あ、ごめんね?遅くなって。 もう20分もしたら着くよ!」

彼女は私を遮り、まくし立てる。

『ティファ?今どこ!?今日は家に帰って来ちゃいけない!
帰って来たら、ブッ殺すよ!!いい?絶対だよ!!』

背後には何かをドンドンと叩く音と銃声が聞こえた。
電話はいきなり切られ、途端に全身が震え出す。
真っ白になりかけた頭をなんとか働かせ、家の方角を探した。
そのまま全速力で家まで走り抜く。



「どいて!!」

両手で人だかりをかき分ける。
家の扉はこじ開けられ、人々の中央には胸から血を流しうつ伏せに倒れる彼女。

ゆっくりと座り込み、その頬に触れる。
まだ暖かい。
首筋の脈に手をずらすが、そこに拍動は感じられなかった。
周囲の野次馬の声が乱雑に耳に入り込む。

...いきなり新羅の奴らが来て...

...反新羅について嗅ぎ回ってるのはお前か?って叫んでたわよ...

...彼女、何も知らないって言ってたのに...

「可哀想に」

突然の声に肩がビクリと揺れる。
隣には、近所で時折見かけた老婆。
老婆は座り込み、彼女の手を取った。

「わたしゃ知ってるよ。
この娘は新羅に反逆するような娘じゃない。
少し口のキツい娘だったけど、平和を好む、穏やか~な心の持ち主だった」

そしてむごいねぇ、むごいねぇ、と繰り返しその手をさする。

そこで私は彼女のもう一方の手に握られた、ラッピングされた小箱に気付く。
震える手でそれを解くと、中からは彼女とお揃いの涙型のピアス。
私が「それ、すごく可愛い!」と一年間褒め続けた物だ。

「妹さんにだって、言ってたよ」

「あんたがその妹さんかい?」





「.........はい」





「その娘をおぶっておやり。
お墓を作ってやらなくちゃならない。」

一人、また一人...人が立ち去り二人きりになった時、未だ立ち上がれない私に老婆は優しく言った。
スラムの外れに死体を燃やして埋葬をしてくれる所があるらしい。
彼女をおぶい、ケーキの箱を両手で持ちゆっくりと前を行く老婆の後を無言で追った。

数時間後、彼女は私の前に変わり果てた姿で現れる。
ぐちゃぐちゃになったケーキは彼女と一緒に燃やした。
細身だった彼女は骨もあまり残らなかった。
しっかりとその一部を握り締める。

「元気を出すんだよ。それをあの娘も望んでるから」

去って行く老婆に、かろうじて感謝の言葉を絞り出す。





私はその足で、七番街まで歩いた。





神様、彼女を殺したのは新羅ですか?
それとも私ですか?





~第一部、完~





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