Minority Hour
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郷愁の黄色いハンカチ
本編×チビティファのお誕生日会。
19’ ティファ誕です。
19’ ティファ誕です。
郷愁の黄色いハンカチ
敵の喉をかっ切り、手ごたえと共にクラウドは地面に着地した。と同時に、二の腕にザックリと刻まれた傷の深さを確認する。
「クラウド!大丈夫!?」
「ああ...」
血の噴き出る裂傷はそこそこの深さがあった。
利き腕じゃなくて良かった...
最悪の事態は免れたが、中継点を目前に魔力切れを起こしている状況に変わりはない。自らの手でおさえこみ止血をしていると、ポーションの浸されたハンカチが手早く巻かれ始めた。
「街に着いたらすぐ手当してあげるから、とりあえず応急処置ね」
「ありがとう、ティファ」
患部をキツく圧迫され、流血は和らいだ。だが結わえられた黄色の布を見やり、クラウドは一面に描かれたポップな柄に目を丸くする。それはデフォルメされた子供向けのチョコボ模様で、えらく幼児趣味な代物である。
...なんでこんな子供っぽいハンカチ使ってるんだ?
疑問に思うも可愛らしい絵柄にはみるみる真っ赤な血が染み込み、続くモンスターの出現に些細な不可思議はすぐに頭の外に追いやられる。
お湯?石鹸?いや、変なことしない方がいいか。
宿屋の洗面所に血染めのハンカチを広げ、腕組みをして考え込むこと数分。布の手洗いに慣れないクラウドは早々に根をあげ、別階の部屋に救いを求めに行く。
「ティファ、さっきは助かった。その...ティファが巻いてくれたハンカチ、血がこびりついて落ちないんだ。今度代わりのもの買ってやるから、捨ててもいいよな?」
ティファはそれを聞くと「もう捨てちゃった?」と慌てる。「いや...」クラウドが否定すると「私がやってみてもいい?」と物の在り方まで案内させられた。
「血はね、落とすのにコツがいるの」
ティファは慣れた手つきで服用洗剤を泡だて、繰り返し擦り洗いをすると「ほら、綺麗になった」と大人用のものより一回り小ぶりなそれを満面の笑みでかざしてくる。くたびれたハンカチの復活を喜ぶ姿に、それは彼女にとって大切なものであることを確信した。
「小さい頃のやつか?随分昔のものみたいだけど...」
「うん。あの事件の日、偶然持ってたの」
ならば納得だ。両親にでも買い与えられたものならば、柄がどんなであろうと身につけていても合点がいく。人目も気にせず思い入れを優先させる振る舞いがティファらしくて、丁寧に水気を取る姿に目を細めていると、「私の思い違いじゃなければ...」と手洗いを終えたティファの視線は俺に注がれる。
「これ、クラウドが私にくれなかった?」
「.........は?」
まさかの発言に言葉を失う。目前に掲げられた色褪せた布切れにまじまじと眼を凝らすと、じわじわ蘇ってくる苦い記憶。
俺があげただと?そう、だったかもしれない...
ハムエッグをトーストの上に乗せモソモソとついばみ、通学用のリュックに腕を通すと、庭先から洗濯籠を担いで現れた母さんは俺を見て口をあんぐりさせる。
「クラウド...すごいことなってるよ、髪の毛!」
「別に。いい...」
濡れたまま枕に押し付けられた直毛は四方八方に尖っているが、まだ半分夢の中であったクラウドにとってはどうでもよかった。呆れる母親を背に玄関を出ると、この時間帯はあまり見かけない少女の姿が目に入る。クラウドの気配に気付き振り返ったティファは、彼とは違い血色の良い顔をほころばせる。
「クラウド、頭ぼっさぼさ!チョコボみたい!」
なんでこんな日に限って会うんだ...
スッと伸ばされた指先にも動揺して「触るなよ!」とつい大声をあげてしまう。ビクっと怯えた紅茶色の瞳にすぐさま後悔するも、すくんだ足はクルリと向きを変え一目散に駆け出した。同じ道を後ろから辿るであろう彼女と顔を合わせることがないよう、全速力で...
「はい。お隣さんからお誕生日会の招待状」
自己嫌悪から立ち直れずにベッドに突っ伏すクラウドの頭に封筒が乗せられた。封を開きながら微かな望みをかけてたずねる。
「...これくれたの誰?」
「ティファちゃんのお母さん」
ほら、やっぱりティファじゃない。きっとティファのお母さんが村の子全員に声をかけてるんだ。ティファはまだ気分を害したままだろう。せっかくの誕生日に、俺の顔なんか見たくないに決まってる...
「行かない。行きたくない」
「もう行きますって言っちゃったよ。何駄々こねてんの」
何を勝手に...抗議をしようと起き上がった矢先、母さんから有無も言わさず小銭を握らされ、「ほら、これでプレゼントを買ってきなさい」と表にほっぽり出された。
重い足を引きずりたどり着いた、見慣れたよろず屋。他の子供達は隣町でもっと良い物を買うんだろうと思うと、ますます惨めな気分になった。限られた選択肢をじっと見比べ、少しでも可愛らしい物はないかと目を凝らす。
(あ...)
ふと目に飛び込んで来たのは鮮やかな原色の黄色。ティファが楽しそうに口にしていた、誰もが愛するフワフワの大きな鳥。
たいした物はあげられないけど、せめて謝りたい...
願いを込めて、折り重なるハンカチの中から一つを手に取った。
ティファのお誕生会当日。クラウドは子供達で賑わうリビングに置かれたテーブルの端に腰掛け、ティファがおめかしをした姿を遠くから盗み見る。だがティファはこちらには一向に顔を向けてはくれない。
やっぱりまだ怒ってるんだ...
意気消沈して家に戻りたい気持ちに駆られるが、プレゼントを開くのを手伝っていた女友達が掲げた小さな包みにハッとなる。
「これ、誰からの?」
喉をゴクリと鳴らし、「俺...」と進み出ると、中から出て来たチョコボ柄のハンカチにティファのつぶらな瞳は大きく見開き、頬は色付いていく。
「チョコボ、好きなのかなって...」
尻すぼみになるクラウドと違い、返された声は明るい。
「クラウド、ありがとう!こないだはごめんね、からかったりして...」
「あ、いや...」
「俺こそごめん」出かかった謝罪はエミリオが、「ティファ、次は俺のプレゼント開けてくれよ!」と押して来た衝撃で掻き消される。ティファはエミリオを気にしつつも、「可愛い...大事にするね」とクラウドを見つめにっこりと微笑んだ。
真正面から向けられた満面の笑みに、クラウドはフラフラとよろめきながら席に戻った。一部始終のやり取りを見て面白くなさそうにしていたエミリオに嫌な予感をさせつつも、クラウドはやっと緊張を解きご馳走にありつく。
「やい、オトコオンナ」
...きた。
友人を追いやり無理くり隣にやってきたエミリオに、「なんだよ、悔しいのか」と言い返す。図星を突かれたエミリオは、唾を飛ばさんばかりに見苦しく悪態をついてきた。
「お前のプレゼント、ダッセーの!」
侮辱だけならまだしも、テーブルの下でこっそり足を蹴ってくるやり口に逆上した。我も忘れエミリオの首に飛びかかる。
「わっ!」とか「キャー!」とか悲鳴が上がった後に続くガシャーーン!!と皿が割れた音で正気に返る。エミリオの腹に馬乗りになったままこわごわ顔を上げると、そこには瞳に涙を浮かべワナワナと振るえる意中の女の子。
「ママが頑張って用意してくれたのに...」
怒りに燃えた眼差しは真っ直ぐに俺を見据えていた...
「誕生日...そうか、お誕生日会か」
俺からのヒントを手繰り十年以上もの時を遡りだすティファは、うなだれつむじを見せる俺に首を傾げる。
「ええと、何か嫌な思い出でもあった?」
「俺、それあげたあとエミリオと取っ組み合いになって...ティファ、あの後三カ月くらい目も合わせてくれなかった...」
「そ、そうだったっけ?」
ママが生きてた頃だから...五歳か六歳?クラウドっていつも喧嘩してたしなぁ。う〜ん、ダメ。思い出せない...
人差し指をこめかみに当てブツクサやるティファを、「年相応なのを買ってやるから、それはもう捨てろ」とクラウドは遮る。
「やだ。とっとく」
「みっともないぞ、そんな子供っぽいの」
「いいもん。そもそも誰の見立てよ」
「そんな大昔のことを掘り返されても困る。だいたいな、十五歳でもどうかと思うぞ、その柄は」
「私、そういうの気にしないの!」
物持ちの良さは立証済みである彼女は、そいつを簡単には手放さそうだ。だが口とは裏腹に、もうその贈り物にさほど嫌な気分は起こらなかった。かつては苦々しかった思い出は時を経て不思議と和らぎ胸に優しく灯る。
長い長い年月の間に散りばめられた二人の思い出の欠けら達。君の幼馴染でありたかった俺にとって、当時は辛くもあった取るに足らない一つ一つが今となってはかけがえのない宝物だ。
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ティファ、お誕生日おめでとう♪いつまで経っても大好きだよ!
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