Minority Hour
こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。
family travel
お誕生日は家族で旅行。18’ クラ誕です。
family travel
家族旅行の勝手なんて、知らない。目的地を定めた俺達は部屋割りにつき考えあぐねた結果、結局変哲のないツインルームを一部屋予約した。
八月も中旬に差し掛かるその日を含め、二日間を丸々空けておくようにと前々から念押しされる。手帳を開いた該当の日をシールで埋め尽くしたマリンによると、今年はお腹の大きなシエラを気遣って我々がロケット村へと出向くらしい。地図を広げるまでもなく脳内に刻み込まれている地形を頼りにティファにとある提案をしたところ、つぶらな瞳が瞬いた。
「水温が低いから泳げはしないが、足を水に浸すくらいは出来る。湖にボートを浮かべられるし、丘からの眺めもいい」
仕事とはいえ足を運びたい土地とそうでない土地はある。人口の少ないその集落を訪れる機会は半年に一度恵まれるかどうかといったところだ。青空に映える深緑の広大な湖。ほとりを取り囲む僅かな平地に赤や青の原色で彩られる屋根が特徴的なバンガロー調の家屋が連なっている。家々に差し迫るようそびえ立つなだらかな丘陵は年中味気のない色彩を纏っているが、この時期だけ野花が一面に咲き誇る様は圧巻だ。だが言っている内に不安になってきた俺は、黙って耳を傾けるティファを自信がなさそうに窺う。
「でも、基本的には何もないところだ」
常日頃、特段主張をしてくることもない男からの珍しい提言に、ティファは「ううん、素敵だと思う。行ってみたい」と柔らかく目を細めた。家族旅行の勝手など知らないが、遠出の理由は人それぞれに違いない。目の前の笑顔に勇気付けられた俺は冗談めいた口調で最終意思決定を下す。
「何より涼しい」
「クラウド、暑がりだもんね」
写真は数枚手元にあるが、口許に手を当て鈴を転がした様に笑うティファの目には晒さないでおく。どうせなら事前情報は最低限に、その場で驚かせたい。
我が家のものより数倍重厚感のある北国特有の木製扉を開けると、シェイカーを振っていた年配の紳士は年に数回訪れるだけの客の顔をめざとく識別する。そして片手で押さえたドアを擦り抜けるよう現れた連れの姿を認め「これはこれは...」と蓄えた髭を一撫でした。
「随分と可愛らしいお嬢さんだ」
ティファは「お嬢さん...」と決まり悪そうに目配せしてくる。確かに字面通り捉えると笑えるが、この初老に差し掛かった店の主にとっては二人などきっと赤子のように映るのだろうから仕方がない。昼過ぎには宿に着き、湖畔の景色と花々の咲き乱れる丘でのハイキングを満喫した俺達は夕食を済ませ子供達を寝かしつけた後、かねてから行きつけであるバーに足を伸ばした。
湖を一望出来る展望台に向け傾斜を物ともせずに駆け上がって行く子供達。後を追う大人の息も自然と上がり、額には汗が滲みだす。鼻腔の奥を満たすのは湿った土の香り。踏みつけた青草の感触に足の裏は束の間アスファルトを忘れていく。半日に渡るちょっとした運動と、故郷を思わせる口馴染みの良い家庭料理。それに酒も加わり開放感を覚えているティファと主人との会話も弾む。
「う〜ん、ローリエと...それとクローブかしら?」
ティファの生業を知ると話は更に専門的な方向へと進み、若手の同業者は経験には劣るもののこの地方の名物料理から立ち昇る香りでもって使用された香辛料の名を当ててみせる。
「ほう、見事なもんだ。もしかして北方の出ですか?」
「ええ、ニブルヘイムです。彼も同じ出身で...」
「なるほど」
そう相槌を打ったマスターは傍らでつまみをつつく男を一瞥し、頭の中でパズルのピースが一つずつはまっていくかのように「なるほど、なるほど」と何度か繰り返した。
“この村には子供が楽しめるようなものはあるか?”
前回ここを訪問した際にホールを受け持つ妻にした質問。それ以外の言葉を交わしたことはない。忘れた頃にフラリとやって来るこの寡黙な青年は運搬業を営んでいるらしく、キザっぽい素ぶりに似合わず孤児を引き取り育てる情け深い一面もあるらしい。見た目を裏切らず生活能力の低い彼を支えているのは同郷の幼馴染で、職業柄舌の肥えている彼女を連れて来ようと思うくらいはこの店の味を気に入っているようだ。そして閉店に至るまでカウンターの隅に居座り物憂げにグラスを傾ける彼が夜な夜な何を思っているのか...
自らになされているであろう分析を思い浮かべ、バツが悪そうにクラウドは再び喉をアルコールで潤わせた。だがそこに何一つ嘘偽りはない。長年行えなかった自己紹介を見る間に済ませてくれたティファに感謝したいくらいだ。酒が回り隣席の彼女はすっかり気が抜けたように見える。
「あーあ。エッジみたいなところに住んでるの、勿体無くなっちゃった」
手を組み前方に伸びをして天井を仰ぐ彼女の言わんとしていることはわかる。仕事が云々なんて返しはここでは馬鹿げていることも。
「私は行ってみたいんだけど、この人が都会嫌いでね」
空いた皿を下げながら妻が厨房をかえりみて肩をすくめる。「ティファさんの店があるなら行ってみてもいいと思いましたよ」背を向けたまま照れ臭そうになされる発言には思わず顔を見合わせた。
「あんなこと言いながら...彼、なんとミッドガルに二十年よ」
ヒソヒソ声で耳打ちしてくる妻の密告には共に目を見開く。
「二十年って...」
「...俺達より長いな」
もはやそれは年齢に近い。「若いうちは今いる場所で頑張れってことかもな」保留にしていた回答をようやく返し、店を後にする。ティファも満足そうに頷き返した。
子供達の寝息を確かめ、部屋の明かりを落としたまま明日の計画を練る。時間に余裕があったため、先程夫婦に紹介された地元のインテリアと食器の店にも立ち寄ることにした。午後には旧友との集いに向け経つ予定だ。そこまでを決めるとティファは急に恐縮してベッドの上でかしこまる。
「ありがとう、クラウド。なんだかこっちがプレゼントを貰っちゃったみたいな気分...」
「なんでだよ。俺が行きたいって言ったんだ」
「うん、そうなんだけど...」
慎み深い彼女を気兼ねなく喜ばせるのは至難の業だ。遠慮がちに伏せられる睫毛に苦笑する。だがそれでも潤んだ瞳とほんのりと染まった頬から隠しきれない高揚が感じ取れた。
「良い場所だっただろ」
「うん。空気が美味しくて、見るもの全部が綺麗で...心が洗われるみたい」
「ああ。一人で来るよりずっと良かった。連れて来たいって、いつも思ってたんだ」
「一人で来ると、実はちょっと寂しい」先程マスターに指摘された際は誤魔化した本音を暴露すると、声を抑えながらも闇の中ティファは笑う。
数歩先へ行ったかと思ったら花畑を背景に少女の顔で悪戯そうに持ち掛けられる。元来田舎娘である彼女はこういった景色が良く似合う。
“クラウド、私達も競争しよっか?”
郷土料理をレパートリーに並べるにはちょっとした踏ん切りが必要らしい。もしくは何かを思い出させるのか。彼女が最も得意とする料理のいくつかは何故か店では振舞われない。夏バテ気味だった痩せた身体は寒冷な気候に食事も進む。
“やっぱり煮込み料理、メニューに入れたいなぁ...うん、決めた。入れよ!”
夫婦によると、湖に突き出た桟橋から見る星空は絶景らしい。子供達が気になるから、ちょっとだけ。そう言っていたティファは一瞬でその光景に目を奪われる。
“ううん、寒くない。もう少しだけ...”
緯度が近いだとか天文学的な事情はわからないが、幼い二人が見たものと見紛うそれに大きな瞳は吸い寄せられるよう釘付けになる。
前もった計画通り、一つのベッドには子供達が。もう一つはティファに譲り、ソファベッドへと背をもたげる。ティファは先程から時計の針を気にしてソワソワしていた。律儀な彼女は例年日付が変わる瞬間までその言葉をとっておく。静まり返った部屋のベッドから声がかかる。
「ねぇ、きて」
それを合図にシーツの隙間に滑り込んだ。家族旅行の勝手なんて知らない。だけど夜中に寂しくなった父親が狭苦しいシングルベッドに潜り込み、それを冷やかす子供達に叩き起こされるのが俺達流だ。本当はどこだって、何だっていい。君がいてくれれば。笑ってさえいてくれれば...
細い腕の温もりにすっかり包まれた時、長針と短針がカチリと重なり共に頂点を指した。
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クラウド、おめでとうございます!
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