Minority Hour
こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。
Cool Ad Hoc ~後編~
Cool Ad Hoc 前編、の続きです。
Cool Ad Hoc ~後編~
予告通り11時前に起き出したクラウドは、パンをかじりながら身支度を整える。
「全身真っ黒って感じ悪いよな?」
「別に何でも良いと思うけど...」
だが日頃装いを気にする素振りもない彼は、エプロンも暗いしな、と明るい色...明るい色...とブツブツ呟きタンスを漁る。
「襟付きだけど、これしかないししょうがないか」
そして滅多に選ばない白い長袖シャツに袖を通した。
ランチ営業が始まりぼちぼち入り出した注文に、ティファはテキパキと手を動かす。黒板に書かれた定食メニューを一瞥したクラウドも、早速フロアに目を配り空いたグラスに水をついだりしてくれた。
(なんかペアルックみたいになっちゃった...)
示し合わせた様な白いTシャツと黒いスカートがこそばゆい。
「ティファ、それの後パスタと白身魚な」
「はい!」
だけど同じ空間で同じ仕事をして...昨夜想像した通りのくすぐったいやり取りに気分が弾む。まだ慣れない手付きでペンを走らせ伝票を破り、厨房に並べる仕草に心が和んだ。
しかし徐々に周囲を満たしていく違和感に彼女が気付くのに、そう時間はかからなかった。
「いらっしゃいませ...」
呼鈴の音に、ウェイターはギリギリ笑ってるとも取れなくない顔を作る。新たな客人の姿を横目で垣間見たティファは、軽く息を吐いた。
(また女の人...)
店が通常と異なる様相を携えだしたのは、客席も二回転目に突入した12時過ぎ。女マスターがソワソワする原因は詰まるところ、気のせいとは言えない程あからさまに多い女性客だった。
調理の合間を縫い、その主因であろうピンチヒッターを盗み見る。やっぱり...
(カッコイイんだよなぁ...)
こうやって他の人に囲まれると、それは一段と際立つ。
自ずと注目を集める端整な顔立ちと、均整の取れた体つき。
腕まくりした袖からは筋肉質な腕が覗き、薄いシャツの上からはそれが全身に及んでいるのが見てとれた。厚みのある上半身と対照的な腰の細さを、無造作に巻かれたエプロンが強調している。
マリンやデンゼルが両手で運ぶ大皿を片手で軽々と三枚持ち、グラスのぎっしり乗ったトレイを掲げテーブルを拭いても揺らぐ事のない芯のある体幹はつい見惚れてしまう。
おまけに多少の失態を見込んでいた予測に反し彼の身のこなしは極めてそつがなく、効率良い動きに店主は調理場を離れる必要がなかった。愛想が良いとは言えないが、段々と緊張が解れてきたらしい彼は「ご馳走さん、うまかったよ」と肩を叩かれ僅かに歯を見せる場面もあり、そのはにかんだ顔はティファをドギマギさせる。
今まさに増加中の女性達は、一巡目の客からの口コミで来たのだろう。彼が近隣でちょっとした人気を博しているのは知っていたが、これ程までとは思わなかった。当然中にはお洒落をした可愛い子も混ざっている訳で、彼の容姿に引け目を感じ始めたティファは途端に元気を無くしてしまう。その上...
...“家族”ってボカしてるらしいね~...
...しかも前に一旦別れたって...
...一緒に住んでて何もないってあり得るの!?...
...その気がないならさっさと別居すればいいのに...
(気にしない、気にしない...)
張本人の耳に届くようにか、はたまた熱中し過ぎてセーブし忘れているのか、何にせよ彼女達の井戸端会議は丸聞こえだった。
「ティファ」
「はい!!」
考えに耽っていた彼女の思いの外大きな返事にクラウドは一瞬怯んだが、急に眉根を寄せジッと見詰めてくる。
「な、なに?」
「少しの間、動くなよ」
すると何を思ったかおもむろに手をティファの頬に伸ばしてきた。
(なななな何!?)
慌てて逃げようとするも、何故だか若干怒ったような彼の表情と、動くなって何で!?と混乱する頭に身体は硬直する。折り曲げた人差し指の背がそっと柔らかい肌を掠(かす)めた瞬間、背後でキャ...!と女の子達が小さな悲鳴を上げた。
クラウドは何事もなかったかの様に指を引っ込め、その先を眺める。
「睫毛がついてた」
「.........へ?
って、くっっ...クラウド!人前で何するのよ!!」
「...?
なんだよ頬っぺたぐらいで。変なティファだな」
赤く染まった彼女を余所に、遠くで上がった手を目ざとく見つけ、スタスタと持ち場へ戻っていく。
(心臓に悪いわ...)
“頬っぺたぐらい” というのは二人きりの時と比較してなのだろうが、第三者からの視線に疎い彼の神経は、今は甚だ迷惑だった。
ふと見ると、クラウドを呼んだ相手は彼も世話になっている常連である。
「あれ、クラウドさん?
へぇ、珍しいね。今日は夫婦で営業なんだ」
「はぁ...まぁ...」
...ちょっと!否定しないわよ!!...
...どうせ話を合わせただけに決まってるでしょ!...
店中のザワめきに重なり、キッチンで調理器具がガシャーンと派手な音を立て、失礼しました!とフォローが騒々しく続いた。
「あの、ご注文は...」
「ああ、そうだそうだ。
ええっと今日の日替わりは何かな?」
内輪な彼らは台所をチラリと見ただけで直ちに平静を取り戻す。
「おい、ティファ。大丈夫か?」
ザルをひしゃげんばかりに握り締めるティファに、カウンター越しに声がかかる。
「だっ!!大丈夫だけどっっ...ふふふ夫婦って、クラウド!」
「似たようなもんだろ。何かまずかったか?」
あ、日替わり一つ追加な。と淡々と述べられ口をパクパクする。甘い台詞など一切かけてこない彼が、何故オーダーと同じノリで核心めいた事を言ってのけられるのか、ティファにはその感覚が全く理解出来ない。
「あつっ!!」
「え?あ、おい!火傷か!?」
火にかけたフライパンに指が触れたのを見て、クラウドは慌ててカウンターに入る。
「あ...平気よ?ちょっと触っちゃっただけ...」
「駄目だ。痕が残る」
構わず調理を続けようとする手をグイっと掴み流水に晒(さら)す。先程同様、客席で何人かが息を飲み、キツく握られた手に視線が突き刺さった。
「あの、クラウド...」
「ん?」
「その...もう平気だから、手...」
ああ、と頷きそれはやっと解放される。
「今氷用意してやるから、そのままにしとけよ」
再び捕えられるのを恐れ、胸を撫でおろし大人しく言う事を聞く。
「なぁ...」
「...ん?」
振り向いた先ではコンロが指差されていた。
「これって...火、止めた方がいいよな?」
「きゃー!!止めて止めて止めて!!」
「なぁ、ティファ...熱でもあるんじゃないか?」
「ないったら!!!」
「そ、そうか」
らしくない挙動の連続に、またしても人目をはばからず額に添えられた手は、半ば喧嘩ごしで振り払われる。
意気揚々と来店した女性陣は一連の流れに戦意喪失し、その後の回転は早く、店主はグラつく頭でなんとかランチタイムを乗り切った。
「流石にくたびれた...
凄いな、いつもこの数一人でこなしてるのか?」
ベンチシートにドサっと身を投げたクラウドは、遅めの昼食を勢い良く胃に掻き込んでいく。今日は二、三割増しかなぁ...と小声で言うティファは苦笑いで、彼は怪訝そうだ。
「...あれ?」
魚の切身を口に運び、違和感に気付く。お腹、あんまり空いてない。足も疲れてないし...
「ねぇ、今日すっごくこき使わせちゃったよね?
せっかくのお休みだったのに...」
「いいんだ」とムシャムシャやる彼に気にする素振りはない。
「面白いものも見れたしな」
意図を察し損ね小首を傾げた彼女に、クラウドは悪戯そうな顔で続ける。
「なぁ、ティファって意外とドジもするんだな。
てっきり俺は難なく回せてるもんだと...」
「う...」
いつもはあんなじゃないんだから!喉まで出掛かった反論を押し留める。数々の醜態を振り返れば言い訳は見苦しいだけだ。
「クラウドは...なんだか凄かったね」
とってもカッコ良かったな。勿論見た目だけじゃなく...
そう言えば彼はいつお皿の持ち方なんて覚えたんだろう。いくら力のある人でも練習が必要なのは経験上知っている。
「俺、案外役に立っただろ?」
得意げに微笑まれドキっとする。
「また手伝ってやるよ」
女の子の目も鈍感な態度も、もう懲り懲り!
そう決め込んでいた心は今日一番の会心の笑みにアッサリ揺らいでしまう。
苦手な綺麗めの格好。
一度も間違われる事のなかったテーブル。
幾分か引きつった、ぎこちない笑み。
(かなり無理してくれてたのよね?)
その理由はきっと...
接客の無愛想さで有名な彼に、否が応でも自惚れてしまう。
「私も慣れなくっちゃね」
「何にだ?」
きょとんとするクラウドだが、暫くぶりに拝んだ気のする晴れやかな顔と続く言葉に、照れ臭そうに頷いた。
“だって、二人のお店だもんね”
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天・然・彼・氏!
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