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Minority Hour

こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。

   

湯けむり夢気分 ll 1

そうだ、温泉に行こう。Part 2。

20' クラ誕です。

裏度数【★★★★★





湯けむり夢気分 ll 1


「クラウド、今年の夏はどこかに行くの?」

受け取りのサインも貰い終わり、去り際に常連客から投げかけられた世間話にクラウドはありのままを答えた。客兼家族ぐるみの顔見知りである彼女は期待通りの返答に飛び上がり、小脇に用意していた紙切れを押し付けてくる。それは良く知った離島への旅行券であり、券を無償で譲るという申し出にクラウドは驚き丁重に断りを入れた。

「うふふ、ウチの旦那となんか行ったら即離婚モノよ」
「...は?」

一回り年上の主婦である彼女は始終にこやかで本当に未練はなさそうだ。それでも換金すればそこそこ値が張るであろうプレゼントにクラウドは及び腰になる。彼女の一家は既に旅先を決めていてチケットの使い道がない旨、捨てるくらいなら誰かに使って欲しい旨を再三説かれ、次の配達時刻が押していたクラウドは止むを得ずそれを手に取った。

「いいのいいの。ティファにもお世話になりっぱなしなんだから。折角だし二人で楽しんできて!」  

そこまで言われクラウドは遠慮を捨て去る。まぁ、我が家も子供達中心で色気も何も無い訳だが...含み笑いと共に放たれたお節介に心中反論し配達先を後にする。一時前に気にかかった謎の一言は多忙な頭からは既に消えていた。落ち着きを取り戻すとクラウドは正体不明の高揚感に襲われている自分に気付く。

“ねぇ、どこか連れてってよ!”
“ごめんね、クラウド...”

片親に育てられた自分は遠方に出掛けた経験がなく、休みの度につまらない思いをした。我が子達にそんな寂しさを味わわせてはいけない。

“ママの具合が悪かったから今年もどこも行かなくて...お返しが無くてごめんね”

新学期、友人達から土産を手渡されてはしょんぼりしていたティファに一方的に親近感を覚えたりもした。彼女はこの提案を喜んでくれるだろうか。そうだ、バレットのやつも呼んでやろう。歓喜する家族の面々を思い浮かべ心を躍らせるクラウドは、隙間時間を縫い計画を立てだす。



「二人共、クラウドから重大な発表があります」

晩御飯を終え食器を運ぼうとしていたデンゼルとマリンは、キョトンと首を傾げ再び自席に座り直した。仰々しい前置きにプレッシャーを覚えたクラウドだが、こういうのは盛り上げが肝心だと気持ちを奮い立たせそれっぽく厳かな声で語りだす。

「今年の夏休みはちょっと遠くに行こうと思う」

一瞬ポカンとした二人は話の内容を理解するとすぐさま歓声を上げた。

「俺、ミディールって知ってる!ずっと南の方にある島だろ?」  
「島?島なの!?素敵!!」

凄まじい興奮っぷりに、ティファの推言通り伝えるのは食後にして良かったとクラウドは思う。

「クラウド、海は?水は綺麗?入れるの!?」
「小さいけど浜はあったし...なんとかなるだろ。凄く綺麗だぞ」  
「やったぁ!マリン、水着持ってく!!」
「去年のはもう小さいから、新しいの買わないとね」
「うん!!」
「クラウド、後は?釣りも出来る?俺、船も乗ってみたい!」
「調べておくよ」

二人からの質問攻めにクラウドとティファはしめしめとほくそ笑む。

「ミディールのモンスターってすっげぇカッコイイんだぜ!」  
「え~...マリン、怖いの嫌だなぁ」
「マリン、出てくるのはモンスターだけじゃないぞ。ミディールには凄いチョコボがいるんだ」
「...凄いチョコボ?」  
「ああ。足が速くてとびきり賢い奴だ。取っ捕まえて乗せてやるから、楽しみにしておけよ」

ティファがこの件につき相談を受けたのは既に旅の段取りがざっくりと練られた後だった。旅慣れをしている彼はこういった手筈に長けていて、そんなところにも頼もしさを感じる。子供達のためのイベントとは知りつつもティファも目的の日を迎えるのが待ち遠しくて堪らなかった。



ジュノン発の直航便で揺られること数時間、徐々に漂ってきた亜熱帯特有の香りにデンゼルとマリンは船の甲板に出ずっぱりで、行先にまだ見ぬ列島が現れるのを今か今かと待っている。

船着場に着くと、我先にと浜へ降り立った子供達の頭越しに窺える鬱蒼と茂った森林が懐かしさを煽った。だが村へと続く小道を辿り人里へと踏み入ると当時を知る大人達は目を丸くする。  

「随分...」  
「...発展した...」
「...ね」

かの大災害で壊滅した村は見事に進化を遂げていた。温泉街には多種多様な店が立ち並び、売り子達が軒先で呼び込みに精を出している。中でも目につくのは至るところに立て掛けてある “ライフストリーム温泉あります” というのぼりである。

「前はこんなのなかったよね?」と首を捻るティファは宿泊先へ向かう三人と別れ、吐き気でよろつくクラウドとある場所へ立ち寄った。

「...ティファ?ティファじゃない!!」

改築された診療所の扉を開くと受付にいた女性は久方ぶりに顔を合わせた知人を即座に認識する。懇意にして貰った日々が蘇りティファはジワリと瞳を滲ませ看護婦に駆け寄った。待合いに腰掛けていた老人も「おお、べっぴんさんかね!」と勢い良く立ち上がる。

「アンタが居なくなった後、ここは火が消えたようになっての...」
「お爺ちゃん、久しぶり!元気そうで良かった...」

昨日の事のように想い出話に浸る皆々に取り囲まれるティファの後ろでクラウドが「うっ」と口を押さええづいた。「やだ!まさか再発?」青ざめる看護師に「いえ、ただの船酔いです...」とティファが言いにくそうに否定すると待合室はドッと笑いに包まれる。

「ほんに何年ぶりかのう。べっぴんさんがお裾分けしてくれる料理が美味しくて美味しくて...こっそり兄ちゃんが元気にならないよう祈ったもんじゃ」
「ふむ。実に絶品でしたな。お気に入りのワインに良く合って...」

騒ぎを聞きつけ医者も診療室から現れる。

「元気でいて貰わないと困るわよ。なんてったって二人は “ライフストリーム温泉” の起源となった初の成功例なんだから!」

ナースの声高な主張に、ティファは「そのライフストリーム温泉って何ですか?」と尋ねる。「えっ、知らないの!?」仰天する人々は口々に事の経緯について説明しだしだ。

あの後、とある重度の魔晄中毒者が島での治療を経て死の淵から蘇ったという噂は人づてに世界中に広まった。回復の見込みの無さに絶望しきった中毒者の連れ合い達は、一縷の望みを掛けて村に噴き出たライフストリームに続々と患者共々身を投げたが、クラウドとティファに起こった事はやはり奇跡だったようで、待ち受けていたのは両人とも帰らぬ人となるという悲劇だった。

そんな事があったなんて...
そういえば池の周囲には賑やかな雰囲気とは相入れない有刺鉄線が張り巡らされていて、“入るな危険!” と警告の看板まで貼られていた。

だが精神分裂状態にある人間を良く知る人物が、魔晄を介して異常をきたしている脳内を交通整理するという発想は悪くない。問題は濃度が濃すぎる点なのだ。そこでドクターは人体に悪影響を及ぼさない濃さのライフストリームと温泉を混ぜ合わせた闘病施設を開発し、何人かの病人達が快調の兆しを見せ始めた事からミディールは湯治の街として火が点いたのである。

「あなた達も是非とも入って行きなさいよ!」

知人から譲り受けたチケットに印字されていた “入浴券付き” という謳い文句はコレだったのかとクラウドはようやく合点がいく。それは治療の域を出て今や一風変わった温泉として主に若いカップル間で大人気らしい。二人きりで入浴、という響きにグラリと気持ちが揺らぐがすぐに思い返して頭を振った。そういう趣旨じゃないだろ、今回の旅は...

「他にも一緒に来てる人がいるので」
「ええ、なんだぁ...二人旅じゃないの?」

すっぱりと言い放つティファに諦めもつく。連れを待たせていると伝え、名残惜しくも病院を後にした。海水浴は明日にし、本日は大自然の中に作られたアスレチックで遊ぶ予定である。スポーティなパンツスタイルで道を行き準備運動として肩をグルグル回し張り切るティファに、クラウドは直前になっても中々言い出せなかった提案を恐る恐る持ちかけた。

「なぁ、もしティファが嫌じゃなかったらなんだけど...」

両指を組んでグッと上に伸ばす懐かしのポーズではたと止まった彼女はクラウドに怪訝な眼差しをよこす。





湯けむり夢気分 ll 2、へ続きます。

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