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Minority Hour

こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。

   

may dream...

教会で思い出すのは...シリアスです。R15指定しておきます。



may dream...


朽ち果てた床板がギシリと悲鳴を上げ、続く一歩は慎重に足を進めた。まるで外界から存在をひた隠しにするかのように息まで潜めて。絵に描いたように惨めな有り様を自嘲する。だが、今はむしろそれが心地良い。救いようが無いのであれば、堕ちていく心体は徹底的に痛めつける方が気が楽だ。

死に行く身だというのに空腹は覚える。ジャンクフードに舌が飽き、咄嗟に手が出た弁当は家庭料理を思わせる見た目に反してどれも変わり映えのない濃い味付けで、今や生命を維持するための域に留まらない日に三度の営みからは何の感動も得られない。主菜と白米だけを食べ散らかし、複数の惣菜が手付かずの残飯を床に放った。

“あー!クラウド!!”

聞き覚えのある声が突如脳裏に蘇り、目が見開かれた。やめろ。止まるんだ。
必死に思考を制御しようとするがそれは止め処なく流れ込んでくる。



「あー!クラウド、またお野菜残してる!!」

休日返上で仕事に邁進し、一人遅れて夕食を啄む男を寝間着姿の幼子達が小躍りして取り囲む。「あっ、ホントだ!」嬉しそうな声を上げるデンゼルは本日は調子が良いらしい。コンロに向かい最後の一品を仕上げるティファが差し迫る就寝時刻に気付いていない訳はないが、床に伏せる時間の方が長い少年の久々に色づいた頬に暫し目を瞑ってやる事にしたようだ。

「残してない。後で食べるつもりなんだ」

苦し紛れの言い訳は見逃される訳は無く、小鉢に不自然に避けられたピーマンに「ティファのは苦くないよ!」「クラウド、子供みたいだな」と盛り上がりは収まる兆しを見せない。「マリン、運んで貰える?」カウンターにコトリと置かれた湯気の立つ好物にクラウドの関心は注がれっぱなしだ。調子づいたマリンは大皿を頭の上に掲げると「お野菜ちゃんと食べたらね」とお預けをしてくる。それには堪らず情け無い声が出た。

「堪忍してくれ、マリン。腹ペコなんだ」

「...だって。どうする?ティファ」食卓における全権を握る年の離れた姉に、含みを込めてマリンは指示を仰いだ。用の済んだ調理器具を流しにかけるティファは視線を上向け考え込んだ後、悪戯っぽい表情を浮かべ「愛情たっぷり込めてあるんだから、食べて貰わないと困ります」と微笑み返す。期待以上の追い風を得てデンゼルとマリンは更に沸き立った。

「愛情た〜〜っぷりだって!!」
「あ〜クラウド、赤くなってる!」

四方を塞がれ逃げ道を無くしたクラウドは「わかったよ。食べるって」と箸を動かし器の中身を口に掻っ込む。片付けを終えたティファは時計を仰ぎ見て、一向に落ち着いて食事を摂らせて貰えない男に助け船を出した。

「ほら、二人共。そろそろ歯を磨いておいで」

火が消えたように静まるフロアは「きちんと磨いたら、その後少しだけお喋りしていいから」とのお達しに再びパッと明るさを取り戻す。一転競い合うように洗面所に駆け出す子供達を微笑ましく見送った。やんちゃ達の扱いも板に付いてきたものだと感心していると、背を向けたティファがエプロンを外す拍子に持ち上がった髪の裏に真っ白なうなじが覗き、弾かれたように視線を逸らす。舌に残る後味には、確かに幼い時分から苦手とする苦味は無かった。



「っと...」

酷くはしゃいだデンゼルの容態でも診ていたのか、子供部屋から現れたティファと狭い踊り場で鉢合わせる。途端にピリリと張り詰めだす空気。子供達がいる空間と違い、二人きりだとまだまだギクシャクしたそれを和らげようとティファが軽く目元を緩める。すれ違いざまに微かに鼻腔をくすぐった女性特有の匂いに、先程目に映り込んできた白い首筋が生々しく思い出された。

「おい...あまりからかうなよ」

階下に向け去ろうとするティファを咄嗟に引き止めた。立ち止まった彼女は振り返ろうとするが、頬が覗ける位置で思い留まる。“つい悪ノリしちゃった、ごめんね” そんな戯れ言が返ってくるだけの筈だった。

「からかってなんかないよ。本当のことだもん」

髪が耳に引っ掛けられ伏せられた睫毛が控えめに覗くのを引き金に、小さく息を飲んだクラウドはゆらりと動きだす。

「あっ...」

抵抗を許す間もなく肩に手をかけ、振り向かせると同時に唇を塞いだ。首の後ろに両手を回し、呼吸も忘れ舌を貪る。噛み付くような乱暴なキスを繰り返す内に、後頭部に細い指が差し込まれたのを感じる。音も抑えない深い口付けを交わしたまま扉を押し退けベッドに転がり込む。もどかしさのあまり強引に腕を抜いた袖が引き千切れそうだった。理性は吹き飛び、快楽なんて二の次の獣のように求め合う行為に没頭する。

絶望的なほど開いたかに思えた距離が詰まるのなんて、男と女なんて一瞬で。幸せになる権利なんかない。そう突き放し傷つける癖に解放してもやれず、“家族” という体の良い肩書きを盾に取り共にあり続けた。思いやる余裕もない、滅茶苦茶な手順にも関わらず繋がり合えた時、こんなにも必要とし合ってると再確認する。

――私達も?

今なら応えられる。きっと俺達は償える...手を取り合いながらも。すれ違いによるわだかまりが全て吐き出された身体は強健な胸板になだれ込むようにして意識を失った。時々思い出したかのように肩がピクリと揺れ、細い手がクラウドの存在を確かめるよう胸を這う度に握り返してやる。こんな風に重みを委ねてくれるのはいつぶりだろう。途方も無く穏やかな時間だった。

その時、唐突に二の腕に集まってきた焼けつくような違和感。続いた電気の走るような激痛に顔をしかめた。

「...っ!!」

...なんだ?痛みのあった腕の裏側を覗き込むが、表面上は何の異常も見当たらない。もう一方の手で押さえたまま脂汗を引かせようとしていると、「...眠れないの?」とすっと手が伸びてきた。我に返ったクラウドは朦朧としたまま彷徨うそれを捕まえ、返事の代わりに柔らかな肩先に鼻を埋めた。額に口付けが落とされ頭を撫でられる。

「おやすみなさい、良い夢を...」

マリンとデンゼルに毎夜繰り返される子供向けのおまじない。フッと笑みが零れ、痛みは跡形も無く消え去り安堵と共に訪れた眠気に自然と瞼は落ちていった。



暗闇の中腕をキツく握り、沸き起こる震えを懸命に鎮めようとする。指の合間を伝う黒い膿。長くはない生涯はやがて慈悲のない結末を迎える。覚める夢なら見せないで欲しかった。愛なんて...幸せなんて知らなければ、胸が張り裂ける事もなかったのに。年端もいかない子供もかかる病気であっても、自らの事となると天誅が下ったとしか思えない。

――悪い事をした子はね、天国には行けないのよ?

鼻で笑い飛ばしていた戒めが今は堪らなく恐ろしい。地獄へ落ちる人間はどこへ行くのだろう。どれほどの苦痛が待ち受けているのだろうか。旧友達の元へ行けるのであれば...そんな甘い考えはここに来てすぐに打ち砕かれる。取り返しのつかない過ちの残像をまざまざと見せつけられるのみで、天から手が差し伸べられることはなかった。

――お前が...俺の生きた証だ
――クラウドは、自分のこと考えて

どうして死を目前にして絶望しないんだ。他人を気遣えるんだ。俺には出来ない。足がすくんでしまうだけの俺には絶対に...。生きるべきは俺ではなく彼らだった。

――クラウド...元気にしてるの?

留守番電話に残されていたメッセージ。とうとう彼女は相棒が自ら家を出た事を知ったらしい。ティファ、元気じゃないよ。明日死ぬかもしれない。愛する人を裏切って、自己嫌悪で頭の中もぐちゃぐちゃだ。
もう何も考えたくなかった。身を横たえ毛布に包まると懐かしい香りにふわりと包まれる。

――おやすみなさい、良い夢を...

束の間で終わりを遂げた儚い時間。けれど全身に余韻が刻み込まれている。幻であってもいい。今夜はあの腕に抱かれて眠ろう。そうでないと心が壊れてしまいそうだから。なんなら覚めなくてもいい。
全ての憂いを遮断してくれる厚い殻に閉じこもる。胸が張り裂けたとしてもやっぱりあの夜の記憶だけは失いたくない、そう思った。


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