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Minority Hour

こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。

   

密室にて

神羅ビルでのアレです。迫り来る魔の手...ティファ、逃げて!



密室にて


殺伐とした独房の床に尻餅を付き、情報過多となった頭を整理する。首なしのジェノバ。セトラと約束の地。エアリスの耳にのみ届くという星の声...
すると寝台の上から聞こえてきた欠伸に、考え事に耽ると見せかけ目を反らしていた現実へと意識が戻された。

「とりあえず休もっか。ベッド、占領しちゃってごめんね」
「気にするな。そうだな、おやすみ」

時計がないので確認しようがないが、深夜はゆうに回った筈だ。60階にもなる階段を駆け昇ったあげく警備員との連戦も続き身体中が悲鳴を上げている。掛けた言葉の通り、クラウドは重くなった瞼をゆっくりと降ろし...たフリをするがティファの瞳が閉じきったのを確認すると、両目をカッと見開いた。

(...って、寝られる訳ないだろ!!)

目の前に無防備に横たわる妙齢の女性の全身にジトッと目を馳せる。敵の本陣で手に入れた数多な情報以上に心を惑わす目下の事態。時刻は真夜中、唯一の出入口は堅く施錠され、狭い部屋にはトイレとベッドが一つのみ...

(なんなんだ、このシチュエーションは...)

①女 / 男 / 動物、②女 / 女 / 男と動物、③女と動物 / 男 / 男...
考え得る組み合わせを冷静に洗い出すと、神羅側があえて採用した部屋割りはただただ意味不明としか言えない。ティファの片手が乗せていた腹からハタリと力無く落ちる。...まさか、本当に寝たのか?

幼馴染なんてこんなものか...
警戒心のない態度に拍子抜け、ハァ...と嘆息をつき壁に後頭部をこすりつける。五年前に生き別れ、奇跡的にスラムでばったりと出くわしたこの世で一人きりの昔馴染み。仕事の斡旋から身の回りの世話まで、行く当てもなく無一文だった暫くの間ティファには良くして貰った。だがコルネオの館で再会を果たしてからというものの、ティファはどこか素っ気ない。

――.........なるほど。
――...!?ティファ!ティファもそこにいるの!?
――すいませんねぇ。

(なんだよ、ティファのことだって助けに行っただろ?女装までして...)

記憶から抹消したい痴態を思い出し、クラウドは一人頭を抱え悶絶した。ティファが娼館に潜入したと知り、正直焦った。でも焦ったからってあんなこと...

――ああ、勘違いしないで。私とクラウドは単なる幼馴染。何でもないの。

一欠片の希望も許さないといった調子でバッサリとやってくれたこの幼馴染を、“単なる” と言い切るには少々難があった。長い脚は片方が軽く曲げられ魅惑的な脚線美が強調されている。手の置かれたしなやかなウエスト。更には...視線を横へと移し、クラウドはしみじみと感慨に浸った。

(成長したよなぁ...)

昔から美少女で通っていた近所に住む女の子は、隣に連れて歩けば街行く人々が決まって振り返る程の美貌の持ち主へと進化していた。目元を閉じた寝顔からは何処と無く以前のあどけなさが漂い、懐かしさにホッとする。だがふと目線を下げた先の赤みがかった唇が瞳に飛び込んで来ると、妖艶で女らしさを感じさせるそれに思わず喉が大きく鳴った。

「キスくらい...いいよな?」

壁にへばりつき可能な限り距離を取っていたクラウドの体はいつの間にやらベッドの縁まで接近していた。これはまさしく “据え膳食わぬは男の恥” という状態ではないだろうか。バレたらこっ酷く叱られそうであるが、幸いティファはスヤスヤと深い寝息をたてている。隙だらけの美女と密室に二人きり。男子であれば誰もが憧れる夢のような状況にクラウドは止まれない。

「ティ、ティファ...」

ドゴン!!!

鼻の先で空気が風を切る感覚に、クラウドは身の危険を察知し反射的に勢いよく首を仰け反った。眠ったまま振られたティファの拳は顔の真横の壁にめり込んでいる。

「ウェッジ、つまみ食いは...ダメなんだから...ムニャ...」

そう言えばセブンスヘブンで雑魚寝をしてた時、アバランチのデブの方がティファの脇に寝返りを打った瞬間吹っ飛ぶのを見た気がする...
武器は取り上げられているが素手も凶器となり得る武道家には何ら差し支えはない。無残にひしゃげた鉄板に背筋が冷えるが、相手は未だ眠りの中である。気をとりなおし、今度は正面からではなく多少警戒をしながら唇ににじり寄った。

「...っ!!」

すると飛んで来たヒザ蹴りに急所を突かれたクラウドは激痛に悶え身を折り曲げる。その後も気配を最大限に殺しているにも関わらず、顔に微かにかかる影でも感知しているのかティファはことごとく邪な接触を防いでみせる。

「こ、今度こそ...」

ありとあらゆる反撃を受け息を荒げた満身創痍の男は、ティファの両手首を両腕でガシリと押さえつけ、自らもベッドに乗り上げ腰にまたがると真上から覆い被さる格好となった。側から見たら極めて危ない図である。次こそ抵抗させまいと意気込んだクラウドが体重を乗せジワジワベッドへと迫ると、不意にティファの唇が僅かに動いた。

「ん、クラウド...」
「...え?」

慌てて窺い見るが、ティファの瞳は堅く閉じられたままだ。思いがけず発せられた名にドキリと心臓が跳ね上がる。何でもない夢を見ているだけかもしれない。それでも...

「ティファ...いいよな?」

心の片隅にほんの少し残っていた躊躇いを吹き飛ばすには十分なそれに、クラウドは改めてティファの整った顔に見入る。そして胸を高鳴らせながら柔らかそうな唇に自らのそれを寄せていった。その瞬間、長らく閉ざされていた戸の鍵穴がカチャリと重苦しい音を立てた。

「起きろ。飯を持って来てやったぞ」

扉を開け突如現れたのは、神羅の兵士二人組。ベッドを転がり落ち二回転して定位置に戻ったクラウドは自らの神がかった軽快な身のこなしを内心褒め称えた。しかし兵達はニヤニヤしながらクラウドの顔をチラチラ見る。そして身を起こし敵を睨み上げているティファに話しかけた。

「おい、女。朝になったら面白い物を見せてやる。この部屋に取り付けた監視カメラの映像だ」
「まさか仲間内に変態が潜んでるとは夢にも思ってないだろうな」
「コイツ、クールぶってるけど内階段でも女のスカートの中覗こうと必死だったぜ」

クックと肩を揺らし部屋を出て行く二人。「何言ってるんだろ、あの人達」不味そうな食事には手をつけず、ティファはトレイの隅に添えられたビスケットだけを手に取り口に運ぶ。

「はぁ、逃げられるかな...」

随分と浅かった気がする仮眠では疲れは取れず、変わらず絶望的な状況に大きな溜息が漏れる。

「大丈夫だ。俺に...任せておけ...!!」

一方のクラウドは、小一時間前のやる気の無さから一転、瞳の芯を炎で燃やしていた。

(マズい...女装の百倍マズい...!!)

由緒あるファンタジーゲームの主人公の座を震撼させるに十分な失態にクラウドは顔面蒼白になり慄いた。部屋の隙間という隙間を調べ、叩きまくったりこじ開けようと無理矢理爪を食い込ませる。

「クラウド、そこまで無茶しなくても...」
「おい、うるせえぞ!お前ら!!」
「クラウド〜?何やってるのー?」

中央の部屋から鳴り響く騒音に隣人達も次々と目を覚ました。幸運にもクラウドが疲れ果てひっくり返っていた隙に房は解錠され、暗黒の歴史は闇へと葬り去られたかに思えた。尊厳を守り胸を撫で下ろしたクラウドは、神羅ビルに残されたビデオが当時を知る貴重な手掛かりとして、今まさにWROの手により分析されている最中とは知るよしもない...


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