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Minority Hour

こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。

   

Baby, once more 1

家出の確執。
ハッピーエンドですが、非常に後ろ向きな別れネタかつ淡いクラエアも入りますのでご注意ください。



Baby, once more 1


...記録的豪雨による、ミッドガル近郊における老朽化したプレートの崩壊や落下には引き続き厳重な注意が...


梅雨入りした先週からラジオが延々と流し続ける陰鬱なニュースに飽き飽きし、つまみを回しボリュームを落とす。頬づえをつき少女向けの冊子をカウンターに広げるマリンがたどたどしく読み上げた。

「『あなたはソウナンしてしまいました。ヒョウチャクした先はどちらでしょう?』」

A. 人で賑わう観光地 B. 地図にのってない無人島。両極端な選択肢に薄々嫌な予感を感じながらも包み隠さず第一印象を答える。遭難って聞くと、どうしてもそっちのイメージだよね...

「...無人島?」
「えっとBはね......ネガティブ!」

傍らのハイチェアーに腰掛けていた男がプっと噴き出すのをすかさず睨みつける。

「クラウドだって無人島でしょ!」
「さぁな、タイニーブロンコはしょっちゅうコスタに流されたしな」

大人同士の小競り合いを無視して、女児が成長の過程で必ず経由するにしてもまだ若干背伸びに当たる本にマリンは尊敬の眼差しを送る。

「すごい...当たってる!」
「ちょっと、マリンまで...!!」

舌をペロリと出した少女は続く項目はクラウドの助けなしにも読むことが出来るとわかり、スラスラと滑舌良く問いを投げかける。

「じゃあね、次。『生まれかわったら、何になりたいですか?』」
「う~~~ん...」

十問程から成る心理テストはシンプルでいて難しい。些細な質問にもしっかりと向き合うことが子供の発達には重要と何かで読んだティファはオーブンを覗き込みつつも本気で考え込む。

「あ、そうだ!男の人になってみたい!」

途端、クラウドは啜っていたコーヒーを吹き、「...本気か?」と目を見張る。

「答えは『ゲンジョウへの、フマンのあらわれ』。ねぇ、“ゲンジョウ” ってなぁに?」

「“フマン”って良くないこと?」と袖を引っ張られる男は幻滅した顔になる。「じゃあクラウドは何になりたいの?」と聞いても「ティファには言わない」と臍を曲げ始めた。

「どうせ何もないんでしょ」

タカを括り決めつけると、意外にもはっきりとした口調が返ってくる。

「あるよ」

何?出かかった声は「マリンには後でちゃんと教えてやるからな」と幼い頭を撫でる勿体ぶった態度にカチンときて押し止まった。

「あ~あ、退屈だよ...あ、おやつ!ずるい!!」
「今呼ぼうと思ってたの!」

長雨に辟易しご機嫌斜めなデンゼルが子供部屋から降りてくる。立ったまま行儀悪くマフィンに伸ばされた手のひらを、「ちゃんと手を洗ってからね」とピシャリとやる。兄の失態をププと笑ったマリンは「私が先!」と駆け出した。

「あ、なんだよマリン!」

「抜け駆け禁止だ!」欲求不満なやんちゃ達は狭い廊下でじゃれ合い、いつにも増しけたたましい。もう、そんなに暴れないの!出かかった小言は洗面所から響いてきた屈託の無い笑い声に掻き消される。ふとカウンターに視線を戻すと、そこには形の良い唇を披露する彼。自らのものも同じ様に型どっていることに気付き、どちらともなく声を上げ笑い合った。

窓の外に立ち込めるのは、明るい声とは対照的な雨雲。真向かいで一点の曇りもなく弾ける三人の笑顔に、ティファは見て見ぬ振りをする。丁度一年前、その暗い雲が家の中に運んで来たものも。再び取り戻した家族の絆は揺らがない。私達は、もう大丈夫。この時は本当にそう思っていたのに...



思えば色々な不運は重なったかと思う。ジメジメと降り続く雨。面白半分の悪意ある干渉。噛み合わないタイミング...だけどそれはきっかけを作ったに過ぎなくて、この感情は気付かない内に膨張し続け、すぐそこで待ち構えていたんだ。

「...え?」

流し聞きをしており、内容を咀嚼するには時間を要した。だが簡潔そのものである情報の飲み込みを妨げているのは、何かの間違いだったら良い、そう願ってしまった自身の願望に他ならない。

「あの人、見かけに寄らず情が厚いんだな。知り合いと縁のある場所だって聞いたけど...ティファも知ってる人?」

突如として話を振られ、動揺した頭を駆使して何でもない風に取り繕う。せめてものプライドだった。

「え?  ええ...」
「...女の人?」
「うん...」
「そうか。やっぱりな」

空いた皿を下げる手が止まっていたことに気付き、ゆっくりと動きを再開させる。幾度も張り慣れた心のバリアでもって身構えた。だがそれもあらゆる衝撃を吸収する強度は携えていない。

「忘れられない人だって聞いたから」



カダージュとの一件以来、湧いた泉の効能を求め教会は人で溢れかえった。結果として場が荒らされることもあり、心を痛めた私達は率先してそこを見守っている。だがそれも数ヶ月が経つと落ち着きを取り戻し、今ではあそこは花と戯れる子供達や祈りを捧げにきた者だけが訪れる、以前と同様静寂に包まれた空間だ。

そんなティファも変わらずあそこには足を運んでいた。心が弱くなった時。逆に浮き足立った時。或いは何でもない気晴らしに。一人きりだったり、時にはマリンを伴って。そこで瞼を落とし深い呼吸を繰り返すだけで思考がスッキリと晴れ渡る。そんな気持ちの切り替えの出来る場所だった。

まさか、未だに彼も足繁くそこへ通っているとは思わなかった。

改めて考えれば今までその発想に行き着かなかったことに失笑する。彼の心に占める女性は最早一人きりに違いないだなんて驕り...なんて愚かな慢心だろう。病に侵されていようがなかろうが彼女の存在の重さが変わる訳がない。なんて事はない。私の知らない所で二人の関係は今まで通り。

「私だって行ってるのに?」

独りごち、浅ましい考えを罵る。でも許して欲しい。女性である自分と、男性である彼。その場所に見出す価値が同じだなんて、到底思えなかった。彼と彼女はこれまでに一体どれほどの会話を交わしたのだろう。かつては夜も寄り添って眠り、どれほどの癒しを得たのだろうか。初めて出会った場所だと聞いていた。一瞬にして惹かれ合った二人。そこで彼女を守ると誓った彼。全う出来なかった約束。最も近くにいる筈の自分。その自分が決して入り込めない世界...

これまで通り黙っていればいい。自分さえ何も言わなければ平穏は保たれるのだから。彼は子供達を、そして私を愛してくれていると思う。ただ失った物が大きかっただけだ。そしてそれを代わりの物で埋められないだけ。

彼が彼女と共に最後を迎えようとしていた事を知った時と同じ感傷が顔を覗かせる。生きる事から、子供達から目を背ける彼を叱咤する事は出来た。でもこの醜い感情をぶつけたことはないし、例え無理強いしたって惨めになるだけ。それを舌に乗せてみると、やはり虚しさに襲われた。瞼を閉じると涙が一筋溢れる。

「私のことだけ、見てよ...」



それからしばらくが経ち、ティファもその件を遠くに追いやった頃に覗いた久しぶりの晴れ間。それはあの特徴ある芳香を際立たせ、咄嗟に息を飲む。
クラウドが内に秘めた想いを見ず知らずの人間に語る訳がない。あの噂話は必ずしも善意のみではなく、多少の着色が施されているに違いなかった。だが根拠のない所に尾ひれもつかない。自分だけが真相を知らずに周囲に嘲り笑われている錯覚に焦燥を駆り立てられる。せめて本人の口から聞きたい。そんなこと、しない方が良いに決まってるのに。

「行ってたんだ」 

乾いた唇から絞り出された声は掠れていて、他人のもののように聞こえる。表情を変えぬままハタと止まる体。

「ああ」 

包み隠さぬ肯定の文句に体温はスッと下がる。そのまま歩みを進め話を終わらせようとする動作に確信した。彼はこの件に関して私を立ち入らせる気はない。わかりやすい挙動もこんな時には微笑ましく思えない。廊下の奥へと立退こうとする背中に食い下がる。

「私も一緒に行きたいって、言ったのに」 

あまり可愛くはない言い方だった。神経質な声調に引き摺られぬようにするかの如く、クラウドは平静を保ったまま低い声を出す。

「前とは違う。もう大丈夫だ」 

「でも...」続いた反論は思いの外強めの語調で遮られた。

「俺はどこに行くにもいちいちティファに報告しなきゃならないのか?」 

一気に殺伐さを増した空気にティファは顔色を失い身を強張らせる。気付いたクラウドは呼吸を止め、平常心を取り戻そうと肩で大きく息をついた。「ごめん、ちょっと苛ついてて。心配してくれたんだよな」と沈着を持ち直した彼は体の向きを変え、柔らかい声色でティファを気遣う。

「ティファ?」
「...ちょっと外に出てくるね」 

顔を見られるのが嫌で、避けるように身を捻ると扉の外へと駆け出した。



広場を抜けた先の通りを当てもなく歩く。緩慢な足取りで服飾店のショーウィンドウに映り込んだ血の気のない顔にどきりとした。慌てて目線を地に落とす行為が酷くみっともなく感じる。そろそろ見ない振りをしていた暗雲の正体に気付かざるを得なかった。

そう遠くない過ぎ去りし日、思えばあの苦々しい日々の始まりも雨だった。日に日に沈んでいき無気力になる彼。非力だった自分。そしてついに...
脳裏を覆う回想を振り払おうと勢いよくかぶりを振る。言ってたじゃない。“もう大丈夫”って。実際ここ最近の彼に危うさはない。

心に影を落とす黒い染みの正体は実のところそれではない。あなたは辛い事があるたび彼女に慰めて貰いに行くの?側にいる私じゃなくて。それ以上に私は...

「私、どうしたいんだろう...」

なぜ諦め悪く例の件を掘り起こしてしまったのだろう。今に始まった話じゃない。一年にも渡り胸の奥に封じ込め、黙認を決め込んできた筈だった。一体彼にどうして欲しかった?その癖いたく回りくどかった主張、ちょっと拒絶されただけで尻込みする体たらくは実に中途半端だった。更には必要以上に焦り、腫れ物に触るかのようだった彼...

「教会に行っていたことが、問題?」

口に出した瞬間、得も言われぬ恐怖に襲われる。二人のあり様を揺るがしかねない根の深い課題に真っ向から向き合った事はない。事実、この時は数時間の散策で気を立て直し、平素な顔で再び自宅へと戻るつもりだった。

「あ...」 

頬にポタリと落ちて来た生暖かい雫。一連の出来事にうっかり捕らえ損ねてしまった雨の予感。

「...ティファ?」 

背後からかけられた声にハッとし、真後ろを振り返る。





Baby, once more 2、に続きます。


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