忍者ブログ

Minority Hour

こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。

   

Overflow 〜Side Tifa〜 2

Overflow 〜Tifa〜 1、の続きです。





Overflow 〜Tifa〜 2


シャワーの水量の加減が掴めず勢い良く飛んだ水しぶきに顔をしかめ、洗面所に置いてあった髪留めで髪を纏め上げる。

(髪、濡らさないようにしないと...)

熱いくらいの流水を心臓の上に滴らせると、段々と平常心が取り戻される。確かに友達同士はこんなところには来ないよね。先の発言や、ここに来るまでの道のりがいやにスムーズだった彼に胸中悪態をついた。とは言え、ふと思い付きで...というよりは喜ばしいのかもしれない。だがこの数ヶ月の間うやむやにし続けてきた問題をいきなり突き付けられ、戸惑いも隠せない。

(やっぱり、男の人なんだな)

共に暮らし始めてから今まで、無理にでも機会を持とうすればいくらでもチャンスはあったにも関わらず一切の手出しをしてこなかった彼に安心しきっていた。せめて心の整理がつくまで...そんなあやふやな誤魔化しは男性であるクラウドにはやはり通用しないと痛感する。上半身を清めた手は下方へと降りていく。そこで指先が悟った事実に頬がカッとなった。

(やだ...)

そして自らも女であるとまざまざと見せつけられる。短時間のキスと抱擁だけで反応を示してしまった身体。女性の身にもこういった変化が起こると知ったのは最近だった。表面上なんでもないフリをしているだけで、あの夜、あの瞬間から彼との関係はガラリと変わってしまった。このまま生活を共に出来るだけで満足だと思う一方で、愛する人から触れられない寂しさが心の奥底で燻っていた事に気付かされる。

決戦の直前、初めて彼に抱かれた。途方も無く幸せだった一夜を思い出すと今でも全身が震え目頭がじわりと滲む。だが戦いを終えてからの二人の仲は停滞気味で、原因はもっぱらティファにあった。命は惜しくない。そんな誓いを盾に誤った半生に身を投じたティファは、あの夜初めて死に怯え、生きたいと願った。理由は単純だ。愛する者が出来たから。

立場が変わった途端に身勝手な願望を抱き、幸福を貪った自分をティファは強く嫌悪する。それはティファが沢山の人々から奪い去ったささやかな祈りそのものだった。それなのに、彼を突き放す事が出来ない。離れられない...罪を犯した者は他人と肩を寄せ合っても良いのだろうか?それとも...
いくら悩んでも結論には辿り着けないし、誰からも責められないのを良い事に今日もクラウドに甘えている。

近頃では忙しさにかまけて眠りにつく直前まで懺悔を捧げない日もある。客と談笑するうちに、もしかして自分は極々普通の人生を送ってきた普通の人間なのではと錯覚することさえあった。いつでも裁かれる覚悟が出来ているならば、それを折り合いをつけると呼ぶのだろうか。それと単なる開き直りとの差は何だろうと葛藤は続く。

密室の中、渦を巻き深みにはまっていく思考を振り払おうとティファは瞳を閉じ脳裏に全く異なるイメージを作り出そうと試みる。近頃は崩れていく気持ちのバランスを整える術をいくつか身につけ始めていた。その内の一つはクラウドが教えてくれて...

ふと瞳を開き、思う。なんで今だったんだろう。ティファの耳奥に穏やかな声が蘇った。


“ティファ、外に出ないか”


赤く腫れた瞼で俯くティファは、クラウドに気を使わせてしまっている事実に益々鬱屈としていく。「何しに?」反意を孕んだ可愛げのない態度にクラウドは「廃材集め」と即答し、ティファは「こんな夜中に?」と目を丸くする。冗談を間に受けた反応を笑うと、クラウドは未だ足取りの重いティファの手を引き半ば強引に仮設の住まいから屋外へと引っ張り出した。

人気のないミッドガル方面へと進むクラウドは、一歩後ろを行くティファの足元を気遣いながら無言で歩んで行った。しばらくして立ち止まった先は本当に日中資材探索に精を出している地点で、閉口するティファを余所にクラウドは半壊したブロック塀に腰掛け隣の一角の土埃を手で払う。ティファも揃ってそこに腰を下ろした。

「都会に出てから、落ち込んだ時はミッドガルの外に星を見に行ったんだ」

膝の上に組んだ手元をぼんやりと見つめていたティファは、ハッと目を見張り上空を見上げた。クラウドがこんな風に自身の経験につき語る機会は滅多にない。

少年時代のクラウドは故郷での日々や新兵となった後の地方遠征の折、ふと目に飛び込んで来た星空にシンプルな摂理に気がつく。天井が低く狭い部屋で考えに耽っていると気持ちは落ちていく一方だが、澄んだ空気と手付かずの自然に触れているだけで不思議と気は晴れ、人間が本来持つ健常さが取り戻されていく。それは人よりも多く孤独を経験した彼が見出した貴重な法則で、ティファを慰めるための言葉が巧みに出て来ない自分に代わり、それらが彼女を癒してくれればと切に願った。

多くは語らずにクラウドはゆっくりと時間を取らせてくれる。かつてここにそびえ立っていた不夜城を照らす魔晄の灯火が消え去り、代わって姿を現した空一面にひしめく星達。ううん、いなかったんじゃない。ずっとそこにあったんだ。ただ見ようとしなかっただけ。頭上を厚く覆うプレートの下、自分が飢えていたのはこんなありふれた感動だったのかもしれない。

怒涛の旅を経て、この美しい星が生き長らえた事はやはり素晴らしい奇跡だと思った。再び目頭に浮かんでくる熱さは先程まで一人流していた涙とは異なる。命を絶つ勇気もない自分。どうせ生きるのであれば、暗く塞ぎ込むのではなく精一杯前を向きたい。慎ましくも人の役に立ち真っ当な生涯を終えたい。そんな前向きな欲求が内から自然と沸き起こってくる。

“もう放って置いて...”

心無い言動の繰り返しにもクラウドが態度を揺るがす事はない。諭すでも急かすでもなく、ただじっとそばに居てくれる。夜半に寝付けず酒にまで手を出した先の醜態を省みて、急に情けなさが込み上げてきた。

「さっきはごめんね、クラウド...」

クラウドは夜空を見つめたまま「気にするな」と短く返す。「ティファには借りがあるからな」さりげなく付け加えられた一言にズキンと胸を射抜かれ、再びティファはうなだれた。

「あのね、クラウド。ミディールでの事が重荷になってるなら...あれは私が勝手にやった事だし、そもそも身から出た錆というか、だから...」

“...だから”?
口に出してしまうと現実になりかねない言葉に恐怖が顔を覗かせる。思い違いをしている様子のティファにクラウドは怪訝な顔で向き直った。「別にあの時の事だけを言ったわけじゃないさ」肩をすくめ、気恥ずかしさから恩着せがましい言い回ししか出来なかった自分に失笑する。

「星を見ながら、よくティファの事を考えた」

モノクロの幼少時代を彩る、一点の色鮮やかな思い出。良い噂など一つもなかった村の嫌われ者に偏見を持たずに接してくれた。それに自分はどれだけ救われただろう。

「そうすると少しだけ明日が怖くなくなるんだ」

こんな事を面と向かって伝えられる日が来るなど思いもしなかった。弱さをひた隠しにし、虚勢を張り続けた痛々しい日々。それも今となっては現在を形取る大切な過去だったと思える。自分はあの頃と比べれば少しは大人になれたのだろうか。

「今度は俺がティファを笑顔にしてあげたいんだ。だから、これからも側にいる」

ティファが言い淀んだ先を代わりに紡いだ。たった一人の故郷の生き残りであり、忘れられない旅の仲間でもあり。互いの存在が大き過ぎて、決めつけてしまう事で言い表せない関係が崩れてしまうのが怖くて...相手を定義付ける言葉を二人は未だ見つけられない。それにしてもなんて臆病な告白なんだろうと呆れかえる。案の定、ぼんやりとこちらに見入るティファはまだ不安げだ。

「...もう、笑えなかったら?」

「安心しろ」クラウドは今度こそ自信を持って言い切った。

“思い出させてやるって、言っただろ?‘’



決めたじゃない。前を向くって。深い呼吸を取り戻したティファは次第に気持ちを立て直していく。血の巡りが戻った身体の中央がトクンと暖かく鼓動を打った。

――少し、意味が違うんだ

ねぇ、どう違うの?知りたいのに、知るのが怖い。後戻り出来なくなりそうで。お願いクラウド、これ以上優しくしないで。どんどん好きになっちゃうよ。前よりもずっと...。ここを出たら、あの瞳に見つめられたら...きっと拒めない。受け入れてしまう。



「あ...」

カチャリと開いたドアのすぐ其処に佇んでいたクラウドは「遅いから心配になって...」と慌てて顔を背ける。

「強引...過ぎたよな」

そうやるせなく髪をかく彼も、これがもう少し違った状況であったなら踏み止まれたかもしれない。黙ったまま反応のないティファに恐る恐る目線を戻すと、思いがけずバスタオル一枚を巻いたのみの姿に体中の血液がカッと沸き立った。華奢な肩や火照った胸元に目が引きつけられ、無意識に艶めかしい肌の上を視線が這う。バスルームから解放された甘ったるい蒸気に当てられ目眩までしてきて、体は欲するままに引き寄せられていった。

「ごめん。我慢出来ない...」

絞り出すような声と彼の匂いに包まれた瞬間、ティファの背筋もぞくりと震えた。屈強な背中に細腕が緩く回された時、クラウドの腕に込められた力が一段と増す。空気の入り込む隙間もない程ピッタリと重なり合った身体。感覚が麻痺していく脳裏の奥底で小さな叫びが上がったが、ティファは温かな背中に這わせた手を引き剥がすことは出来なかった。





Overflow ~Side Tifa~ 3、へ続きます。




PR
  

最新記事

(12/31)
(12/31)
(08/11)
(05/03)
(05/03)
(05/03)
(05/03)

WEB拍手

Copyright ©  -- Minority Hour --  All Rights Reserved

Design by CriCri / material by DragonArtz Desighns / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]