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Minority Hour

こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。

   

Overflow 〜Side Cloud〜 1

Overflow Cloudサイドです。裏描写はありません。



力仕事を終え最近完成したばかりの新居へと向かう道すがら、共に作業に勤しんでいた大男が物言いたげな視線を向けてきてはソワソワと逸らす。数日繰り返され続けた歯切れの悪い態度にクラウドはとうとう「なんだよ、最近変だぞ」と痺れを切らした。

「話がある」

思い詰めた表情のバレットは労働者向けの休憩所へとクラウドを誘うと椅子にドスンと腰掛け、運良く入荷していたビールを二缶注文した。乾杯もないまま生温く泡立つ液体を啜るが、クラウド相手に話が盛り上がる筈もない。

「お前よう、ティファとはどうなんだ?」

暫くしてのらりくらりと切り出された話題にクラウドは「どうって...」と戸惑った声を出した。

「いや、その...なんだ?そういう気はあるのかよ」

どうやら気のせいではなく本気で恋仲についての質問のようだ。不得手とする流れにクラウドは「大切に思ってる」と当たり障りのない言葉を選んだ。

「大切なのは当たり前だろうが!その...女としてだ」

深読みを得意としないがさつな男はそれでは満足をしてくれず、苛々と歯痒そうに巨体を揺らしせっついた。追い詰められたクラウドは暑苦しい視線から目を逸らし「そっちの意味でも、だ」と端的に述べる。深刻な顔をしていたバレットはそれを聞き、「なんだよ、そうかよ。そりゃあよかった」と拍子抜けしてたちまち正気に戻った。

「お前何考えてんのか全然わかんねぇからよ。なんだよ...そっかそっか」

旅の間はまだしも、共に暮らしてみるとクラウドは実に感情を表に出さない人間であった。愛想のない相槌にマリンは当初ビクビクしっぱなしであったし、ティファという通訳無しには意思疎通もままならない時もある。また、人目を気にする気質から人前ではティファに淡白に接する機会もあったが、まさかそれが自分の前で殊更顕著な現象であるとは鈍感なバレットもまた気がつかないのであった。

「俺は近く家を出る」

もしも妹分の恋心が一方通行であったならば、クラウドも連れて出ようと思っていた。胸を占めていた大きな悩みが解決し最早思い残すものはなくなった。クラウドが難色を示してくる反応は想定通りで、一回り以上年上の中年の決心はそんなものには動じない。

「あそこはお前らの場所だ」

長年血塗られた道を辿った二人は支え合いながらきっと新しい人生を見出せる。誤らなかったとは言わない。だが二十そこそこという年齢は罪を償うために全てを投げ打つには若過ぎるし、特に当時未成年だったティファを正しい道に導いてやれなかった責任を彼は重く受け止めていた。

時間はかかるかもしれないがティファは幸せになれるだろう。何故なら彼女は一人ではないから。人を救えるのは人でしかない。マリンが自分を生かしてくれているのと同じように...

「これでもそれとなく伝えてきたつもりだったんだが...」

難なくクラウドを説き伏せたその後のバレットはひたすら明るかった。ちっとも進展を見せない若者達に先輩面で恋愛教示をする余裕さえ生まれてくる。

「それとなく?ああ...そりゃあ、お前無理ってもんだ。ありゃてんで鈍いだからな、昔っから通じやしねぇ。俺だって女房のお膳立てでなんとかなったんだ。お前らは両方とも腑抜けだから苦労するぞ」
「もうしてる...」
「へへ、そりゃいいや!」

分厚い手のひらで思い切りはたかれたクラウドは、手元の酒を飲み干すと少し歩いて酔いを覚ますとバレットに別れを告げた。人がはけ閑散としたミッドガルの瓦礫に埋もれ、汗と煤にまみれた体を横たえる。自らが発するすえた汗の臭いに笑いが込み上げてきた。星の滅亡を食い止めた戦士達を待ち構えていたのは栄光でも平和でもなく荒廃した土地と食糧難で、何とも自分にお似合いだった。その時、視界の片隅にきらりと流れた光にクラウドは咄嗟に上半身を起こす。

ミッドガルで星、か...
そしてそれを一番に見せたい人物の顔が夜空にありありと映し出された。目まぐるしく過ぎ去った旅の中で想いを通わせた、初めて好きになった人。平穏を取り戻したなら飽くまで抱き締めようと思っていた彼女は今は希望を失い失意の底にいる。

“そんなこと言ったら俺だって...”
“ああ、確かにな。お前は腕っ節しか能のないデクの坊だ。だけど、お前にしか出来ない重要な役目がここには一つある”

一人贖罪の道を探すと宣言する友人との会話が蘇る。言われなくてもわかってるさ。続いてバレットは会心の笑顔を見せた。


――ティファを支えろ


Overflow 〜Cloud〜 1


――あの時、私...何もかも押し流してくれればいいと思ってしまったんだ。私の過去。私達の過去。もしかしたら私自身も...ここにはこんなにも生きようと頑張ってる人達が沢山いたのに...

その告白を受けた時、彼女はやはり強い人だと思った。人は過ちを犯した際、取り返しのつかなさに途方に暮れ、口に出さずとも多かれ少なかれ同様の呪いに取り憑かれるものである。

かく言う自分もそのような経験はごまんとあった。望み通り事が運ばないのであれば世界など跡形も無く消え去ってしまえばいい...そんなやけくそを願った回数は数え切れない。そんな醜い本音を曝け出し、自らを決して許すまいと戒めるティファはちっとも弱くなんかない。

エアリスを訪ねた場で涙するティファの肩を抱き、奥底から力が漲ってくるのを感じる。そして一回り小さく見える彼女を心から愛おしいと思った。ティファが胸の内に何を抱えていようとも意志は揺らがない。再び立ち上がれるまで支え続ける。何故ならティファはクラウドが自身さえ望みを失った窮地において、ただ一人諦めずに彼を信じ続けてくれた人だったからだ。

ティファが思い悩む問題は難しいものだったが、これだけは断言出来た。彼女が置かれた悲惨な境遇や、人的被害を故意に狙った訳ではない点を鑑みても十分に情状酌量の余地はある。ましてや命を絶ってしまう程の罪ではないと自信を持って言い切れた。過去を清算し、きっと持ち前の人間性を活かして明るい未来を切り開いていける。与える側の人間であると疑わなかった。

結局、その考えの通り開いた店は何の心配もなく繁盛した。素朴ながらも美味い飯と酒、そして気立ての良い娘に朗らかに話しかけられて笑顔にならない輩がどこにいるだろう。ティファは孤独に陥った者に積極的に声をかけ、ある時は機転を利かせて共通点のある者同士を引き合わせた。人が人を呼び、我が家は街で毎夜笑い声の絶えない場所となる。

情緒不安を抱えながらもティファは毎日店を開いた。そんな健気な彼女を前にクラウドは密かに一つの誓いを立てる。ティファが本来の明るさを取り戻すまで、心を乱すであろう己の邪な欲望をぶつけたりはしない。だが確固たる決意を胸にしたクラウドは思わぬ受難に見舞われる事となる。





Overflow ~Side Cloud~ 2、へ続きます。





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