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Minority Hour

こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。

   

Secret Frame

三人の愛らしい悪戯写真をクラウドは...



Secret Frame


――メモリの空き容量が不足しています

紙切れに書かれた住所を撮影しようとした際に無遠慮に表示されたメッセージに舌打ちをした。無機質な通信機器に心中いくら悪態をつこうとも他に解決の方法もなく、逐一不要な画像を削除していく。大半は伝票や地図である面白味のないモノトーンの中に突如、異色な人物写真が舞い込んできた。画面一杯を占めるのは、最愛の三人の弾けんばかりの笑顔。ボタンを押す手はハタと止まった。俺、こんなの撮ったっけ?

燦々と降り注ぐ日光と背後に僅かに覗く風景から、クラウドは撮影場所におおよその見当をつけ始める。そしてそのピクニックの間にうっかりうたた寝をしてしまい、目を覚ました際に子供達がしきりに含み笑いをしていたのを思い出した。思わずフっと音を伴う笑みが零れる。この一枚の正体は、俺の携帯に施された悪戯だろう。忘れ去られたか、はたまたこうして自発的に掘りおこされるのを待っていたのか、この写真は一ヵ月近く手の内で密かに眠っていたことになる。

注意深く見ると、自分がシャッターを構えた際に向けられる表情とに差を感じ始める。狭い画面になんとか収まりきろうと身を寄せ合う三人は母親の腕でしっかりと結びつけられていて、マリンはともかくデンゼルまでその腕をギュッと握り返していた。額に汗を滲ませた子供達は今にも飛び上がらんとする躍動感を放ち、いつもはつぶらに煌めく瞳は糸の様に細められていた。

(いいな、これ)

そしてクラウドは、静止画であるそれが動き出すはずもないのに恐る恐る黒髪の女性に焦点を合わせる。子供達の頭に押し付けられた口元には白い歯が覗いていて、幼子に混ざって悪ふざけに興じる瞳は茶目っ気に溢れ、彼女をとても幼く見せる。普段なかなかティファと正面から視線を合わせられないクラウドは、貴重な機会に時が流れるのも忘れ自然な笑顔に食い入った。

いいな、これ...
全く同一の感想を反復し終わると、携帯電話はクラウドの指に従い操作音を立て始めた。十分な空き容量を取り戻したそれは、今度こそ持ち主の言う事を従順に聞き始める。



それから幾日も経たずにクラウドの表情は翳りを見せる。「子供、でかっ!!」そんな突っ込みは問題にならないが、最近すっかりサイズを増す傾向にある画面を盗み見た客のコメントは八割方一人の人物に集中した。

「わっ、コレ奥さん?めっちゃ美人!可愛い~!」
「うわ~...あんたって、何気にムッツリだったんだね...」

今しがた集荷を終えた常連の老紳士の目があそこまで三日月型に変形したのをクラウドはこれまで拝んだことがない。

「ふぉ、ふぉ、ふぉ、若いの。中々の面食いじゃの」
「.........」

しかしそれは世間の風潮に疎いクラウドにも非があった。

(子供はともかく、恋人の写真を待ち受けにする奴ってあまりいないんだな...)

接客中に客のディスプレイも嫌でも目に入る。どこからどう見ても美形である彼女をそこに晒すのは、所謂見せびらかしであり、是非突っ込んで下さいと言っているのと同じだった。クラウドは大きく溜息をつき画面の設定を変更し、例のベストショットを四六時中眺めるのは諦めることとする。



休みの昼下がりにも、背筋のスラリと伸びた身体は小川をせせらぐ清流のごとく流れることを止めない。だが営業前とは異なる小気味良い鼻歌や、厨房のあちこちで「うん」とか「よし」とか呟かれるトーンから、それは彼女にとっては立派に休日の気晴らしに当たるのだろう。

向かいにいたはずのティファは気づけばスコーンが食べ散らかされたカウンターを拭き、空になったコーヒーカップを下げにかかる。クラウドは新聞を読んだまま邪魔をしないよう身を仰け反るが、その体勢を維持している最中に目の前の手がパタリと止まった。怪訝に思い読み物から首を覗かせると、布巾から離れた指先は転がされた財布の端からはみ出た光沢紙をツイと引っ張る。カルタでもするかのように勢い良くそれ目掛けてバン!とテーブルを叩くが、一足遅かった。切り取られた小ぶりな写真を手に、大きな瞳はみるみる見開かれていく。逃げ道を失ったクラウドは、しどろもどろ事の顛末を白状しだした。

「本当は三人揃ったのを待ち受けにしてたんだ。けど...」

クラウドが何日か前に携帯の画面を愛らしいツーショットに変更したのには気付いていた。ややくたびれた紙切れに今一度目を走らせる。この私、すっごい笑ってる...

「こんなのいつ撮ったっけ?」
「なんだよティファ。思い出せないのか?」
「どういう時に見るの?」
「どういうって...疲れた時とか、嫌なことがあった時とか...」

じわじわとくすぐったさが込み上げてきたティファは、それを誤魔化すかのように舌が止まらない。

「元気、出る?」
「早く帰りたくなるけどな」

そこで初めて笑顔を覗かせる彼は、「気分が悪いならやめる。嫌だったか?」と生真面目にお伺いを立てる。

「私もクラウドの写真、欲しくなっちゃった」
「よしてくれ、写真は苦手だ」

人のものは断りなく盗み見用に忍ばせていた彼は身勝手に嫌悪の色を露わにする。

「それに、店やってる間に写真なんか見られないだろ」
「服の内側に貼り付けておこうかな、小っちゃいの」

襟ぐりに手を添えるティファに、眉をピクリと上げたクラウドは「それ、いい案だな」と一転鼻の下を伸ばしだす。

「ここら辺で頼む」
「そんなに下じゃ見辛いじゃない」

日中にも関わらず調子に乗り胸の中央を指差してきた手の甲は容赦なくつねられる。先程投げられた質問に返事はされていないが敢えてそれに言及はしない。元気が出て、家にも早く帰りたくなるならば、気恥ずかしさを考慮しても恩恵は余りある。一眼レフで撮った写真が数多アルバムに収められている中、若干解像度の悪いそれをわざわざ採用したクラウドに、ティファは彼の一番のお気に入りであろう笑顔でもって、先のお伺いを快く承諾した。


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(77,777hits御礼その7)


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