Minority Hour
こちらはFF7 クラウドとティファ のCPを中心とする二次創作小説を扱うサイトです。初めての方は「About this blog」をご覧下さい。コメントはwebclapからお願いします。
クラウド・ストライフの憂鬱
ティファの服装を巡り、男女でバトル!
クラウド・ストライフの憂鬱
「見慣れない服だな」
食卓の片付けをするティファの顔がパッと華やぐ。「気付いてくれた?そう、先週買ったの」滅多にない事に「どうかな?」なんて機嫌の良い声が朝日の差し込むダイニングに響いたのも束の間、クラウドが歯切れ悪く発した「ああ。ただ、あまり露出が過ぎるのは...」という聞き捨てならない返事にティファは耳を疑う。
「“露出”?...こんなんで露出!?」
急変する声色にしまったと思うが、時既に遅し。ティファはみるみる機嫌を崩し傍らでテーブルを拭いていた娘に不満を零し始める。
「マリン、クラウドがこの服可愛くないって」
「そんな言い方してないだろ」
「じゃあ、いやらしくしか見えないって」
「えー!?なんで?すっごく可愛いよ...」
仰天するマリンには目の前の服装のどこに問題があるのか皆目見当つかない。カットソーは五分まで袖があり、スカートだって膝まである。特徴としては前よりも後ろの方が開いた襟ぐりであるがそれだって節度を保った範囲内で、残暑の厳しかった先週と比べても肌が出ている面積は大分少なかった。
女性陣の猛攻にクラウドは手も足も出ない。終いには、女の子のお洒落にケチをつけるなんて男らしくない!とマリンに一刀両断され肩を落として仕事へ向かう。最悪の始まり方をしだした一日に重苦しい溜息を吐きフェンリルに跨った。
言葉は悪かったが折角新調した服を貶したかった訳ではない。むしろ素肌の綺麗さとハッキリとした目鼻立ちをより引き立たせる秋っぽいえんじ色が季節にもピッタリで良く似合っていた。ただ、他が隠れている分背に覗く白い肌が際立ち、赤という色も煽情的だ。髪を片側に流した際に露わになったうなじに加え、普段は覆い隠されている肩と背筋がチラリと垣間見える。そこから腰へと続く非の付け所の無いS字カーブは何とも艶めかしいものがあった。たかが背中という認識だろうが、異性が欲情しないと思うのは大間違いだ。
(背中って、見せて欲しくないんだよな...)
女性側の主張が何であれ、どうしようにも曲げられない本音であった。視線の気になる顔や胸元と違い、背面に注がれる男連中のいやらしい目には遠慮というものがない。誰であってもあの無防備な素肌から布一枚隔てた先の肢体を思い描くことだろう。
“誰も見てないって...”
嘆息混じりの呟きを思い出し、内心ぼやく。火に油を注ぐのを恐れ口にするのは思い留まったが...
(...見てないわけがないだろ!)
終日家を空ける自分を差し置き一体何人の輩があの新鮮な装いを堪能するのだろうと思うとむしゃくしゃした。
夜の営業準備が始まり、虫の居所が悪かったティファも例の出来事を忘れかけた頃。今朝は貝のように押し黙り事の成り行きを見守っていた少年が恐る恐る切り出した。端から見ていてもクラウドの言葉選びのセンスのなさに呆れるが、それにしてもこっぴどくやられた不器用な養父は同性の自分からすれば同情の余地もある。
「俺はさ、クラウドの気持ちもちょっとわかるんだ」
遠回しな物言いに何の話をしているのかすぐにはわからなかったティファは一拍遅れて「...そうなの?」と目を丸くする。
「この格好、そんなに変かなぁ...」
「いや、全然そんなことないよ!」
慌てだすデンゼルは拙いながらもティファの纏う新しい洋服がとても素敵であると精一杯伝えてくれる。気恥ずかしさから赤面してボソボソとなる様子が可愛いらしく、「ありがと」と茶色い癖っ毛を優しく撫でた。まったく、それに比べてクラウドときたら...露出って何よ、露出って。
「じゃあ、クラウドのいない所で着るのはどうかな?」
その提案を受けデンゼルは妙案を思いつき、ニンマリと微笑む。
「ううん、逆だと思うんだ」
クラウドでは決して打開出来ないであろう状況に手を差し伸べるべく、デンゼルはティファに耳打ちした。事の真髄の読めないティファはキョトンと首を傾げる。
鳴り出したアラームをすぐさま止め、ベッドを擦り抜けると背後を気にしつつも手早く下着を身につける。クローゼットを開け着る物を思案する前に、ざっくりと本日の予定を参考にすることにした。今日は長雨のせいで溜まりに溜まった洗濯物をやっつけなくちゃ。買い出しは済んでるし子供達もお友達の家に遊びに行く予定だから、午後は料理の試作に思う存分時間が割けて...
「んん...」
寝返りと共に漏れ出た掠れ声に、「クラウド、目が覚めた?」と挨拶をする。寝ぼけ眼の彼は、朝日を背景に身支度をすっかり整え寝癖一つないティファの本日も麗しい姿にぼんやりと見惚れる。毛布に包まったままちょいちょいと手招きをするが、ティファはつれなくそっぽを向いた。
「...もう起きますよ」
「五分だけ」
自分から来ればいいものを、目を瞑ったまま「なぁ、三分でもいい」と腕を広げる不精な甘えん坊にやれやれと折れてやる。彼がこんな戯れをしてくるのは休日の起き抜けぐらいだった。再びベッドに腰を降ろしたティファをシーツの中に引きずり込み、クラウドは後ろから抱きすくめる。そしてひんやりした肩口に鼻を擦り付けてきた。
「今日の格好、いいな」
「...そ、そう?」
「ああ。こういうの好きだ」
二週間前と寸分違わないコーディネートの癖に、外出の予定がないとくれば手のひらを返したように打って変わった反応。デンゼルの言う通りだった...男心なんてそんなもの?確かに二人きりの際にクラウドから装いにつき注意を受けた事はない。ティファを抱き締めたまま再び眠りに落ちていったクラウドの満足そうな寝顔に呆れ果てる。
キッチンを取り巻く空気に作戦がうまくいった事を悟ったデンゼルは、恥ずかしがり屋をいたずらにからかったりはしない。
「ティファ、その服可愛いな!」
面と向かってはなかなか口に出来ない褒め文句をすれ違いざまにかけると、何かを思い出しかけて怪訝な顔をするマリンの手を取り「早く遊びに行こうぜ!」と駆け出し内心ほくそ笑む。女心は難しい。しかし何をやっても敵わないクラウドと比べ、どうやら自分はずっと世渡り上手なようだった。
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